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静岡市東海道広重美術館「東海道五拾三次之内 由井 薩埵嶺」 1833年頃 歌川広重作【美と快と-収蔵品物語㊲】

 江戸時代を代表する浮世絵師歌川広重(1797~1858年)が37歳の頃に描いた「東海道五拾三次之内(保永堂版東海道)」。宿場とその周辺を叙情豊かに表現し、「名所絵師」の名声を得た。静岡市東海道広重美術館(清水区)が所蔵する全55点の中でも、 「由井 薩埵嶺」は往時の旅人たちが眺めた絶景を鮮やかに伝える。

24.5センチ×37.5センチ 浮世絵
24.5センチ×37.5センチ 浮世絵
37.1センチ×26.8センチ 浮世絵
37.1センチ×26.8センチ 浮世絵
東海道広重美術館
東海道広重美術館
24.5センチ×37.5センチ 浮世絵
37.1センチ×26.8センチ 浮世絵
東海道広重美術館


緻密な対比 構図の技


 広重が由比宿の名所として選んだのは、険しい薩埵峠と駿河湾越しに富士山を望む景色。明治以降、近代化で多くの宿場が様変わりしていく中、現在もその姿をとどめる。

 旧由比町は1980年代後半から、旧東海道の本陣跡を公園に整備する計画を進めた。中核に据えたのが、全国初の広重の名を冠した美術館。当時の教育長で初代館長を務めた手島英真さん(95)は「広重の東海道といえば、誰もが思い浮かべるのは保永堂版。 全点をそろえるのが絶対条件だった」と振り返る。

 作品探しの協力を仰いだのが浮世絵研究の第一人者、故楢崎宗重さん。手島さんの立正大時代の恩師でもあり、「東海道沿いに広重作品が見られる美術館ができることを大変喜んでくれた」。91年に保永堂版を入手し、94年の開館時には、 現在のコレクションの核となる800点がそろった。

 広重が手がけた「五十三次もの」は20種類に及ぶ。さまざまな由比宿が見られるが、保永堂版の特長について、山口拓海学芸員は緻密な対比の構図にあると解説する。

 左手の断崖に対し、右手に広がる駿河湾が開放感を演出する。より効果を引き出すため、あえて伊豆半島を省略し水平線を描いた。また、絶景に身を乗り出す旅人に対し、まきを背負う地元の人は見慣れた景色なのか目もくれず先を急ぐ。

 「広重ブルー」とも呼ばれ、透明感のある鮮やかな青色の「ベロ藍」で摺[す]られた海原も魅力。山口学芸員は「当館のものは、特にグラデーションがきれいに残る貴重な作品」と話す。



「東海道張交圖會 東海四 原 吉原 蒲原 由井 興津」 1849~52年 歌川広重作 名物や名所盛り込む



 「貼交絵[はりまぜえ]」と呼ばれる浮世絵の様式。浮世絵師の中でも広重の作例が多く、「東海道五十三次」を題材にした貼交絵は3シリーズが確認されている。

 複数宿の名物や名所、伝説を1枚に盛り込む趣向で、由比は「サザエのつぼ焼き」。画中には「くら沢名ぶつ さゝゐのつほ焼」と書かれている。原の「かぐや姫」、吉原の「浮島沼のナマズ」、蒲原の「富士見西行」、 興津の「塩浜」が囲む。由比でサクラエビ漁が始まったのは明治時代。江戸時代の名物はサザエのつぼ焼きだった。

 保永堂版を購入した翌年の1992年、収集第2弾として手に入れた。風景画だけでなく、歴史や風俗などから、人々が東海道の浮世絵を楽しんでいたことがうかがえる。


静岡市東海道広重美術館
 静岡市清水区由比297の1。旧東海道沿いにある由比宿の本陣跡地内、土蔵のあった場所に建てられた。収蔵品は「東海道」(隷書東海道)、「東海道五十三次之内」(行書東海道)の他、広重晩年の傑作「名所江戸百景」など、 風景版画のシリーズを中心に約1400点。広重の人物像や多色摺りの浮世絵技法について解説する。掲載した2点のうち、「由井 薩埵嶺」は13日~10月16日の「広重と国貞」展パート1で、 「東海道張交圖會」は12月13日~来年1月22日の「いろいろ魅[み]せます 五十三次!」展パート2で展示される。

 

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