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【フォーカス水中清掃】支笏湖をきれいにしよう! 革新的な水中ドローン活用、参加型の広がりに期待

 今夏は全国各地で海水浴場が活況を取り戻し、ダイビングなどマリンレジャー人気が回復した。増加するインバウンド(訪日客)の注目も高まる中で国内屈指の水質を守ろうと、北海道・支笏湖の地元有志が水中ドローンを活用した革新的な清掃活動に励んでいる。

支笏湖に潜ったドローンが撮影した湖底のごみ。釣り糸やルアーが多く、生態系に影響を及ぼしている(提供写真)
支笏湖に潜ったドローンが撮影した湖底のごみ。釣り糸やルアーが多く、生態系に影響を及ぼしている(提供写真)
北海道・支笏湖(千歳市)
北海道・支笏湖(千歳市)
「自然とどう共存していくかを考えたい」と話す板谷貴文さんと水中ドローン=北海道千歳市、6月27日撮影
「自然とどう共存していくかを考えたい」と話す板谷貴文さんと水中ドローン=北海道千歳市、6月27日撮影
グーグルマップ上で公開している支笏湖の水中ごみの滞留地点。ピンをクリックすると映像が表示される
グーグルマップ上で公開している支笏湖の水中ごみの滞留地点。ピンをクリックすると映像が表示される
支笏湖の湖底から収集した空き缶や空き瓶。数十年前に投棄されたとみられるものもある=北海道千歳市、2023年6月26日撮影
支笏湖の湖底から収集した空き缶や空き瓶。数十年前に投棄されたとみられるものもある=北海道千歳市、2023年6月26日撮影
「支笏湖ブルー」の眺望。風不死岳が湖面で鏡のように映る。左奥は樽前山=2023年4月(オーシャンデイズ提供)
「支笏湖ブルー」の眺望。風不死岳が湖面で鏡のように映る。左奥は樽前山=2023年4月(オーシャンデイズ提供)
支笏湖に潜ったドローンが撮影した湖底のごみ。釣り糸やルアーが多く、生態系に影響を及ぼしている(提供写真)
北海道・支笏湖(千歳市)
「自然とどう共存していくかを考えたい」と話す板谷貴文さんと水中ドローン=北海道千歳市、6月27日撮影
グーグルマップ上で公開している支笏湖の水中ごみの滞留地点。ピンをクリックすると映像が表示される
支笏湖の湖底から収集した空き缶や空き瓶。数十年前に投棄されたとみられるものもある=北海道千歳市、2023年6月26日撮影
「支笏湖ブルー」の眺望。風不死岳が湖面で鏡のように映る。左奥は樽前山=2023年4月(オーシャンデイズ提供)

 持続可能性などの観点から、専門家も意義を強調。同様の取り組みが全国の海や湖沼、河川へ広がると期待している。(共同通信編集委員 戸部丈嗣)

 ▽前例ない試み

 淡水ダイビングの名所で、鮮やかな紺碧(こんぺき)の水面が「支笏湖ブルー」と称賛される水質は、環境省の調査で何度も日本一に輝いた。

 活動の中心はダイビングインストラクターの板谷貴文(いたや・たかふみ)さん(45)と、ドローンパイロットの角田和将(つのだ・かずまさ)さん(45)。
 
 湖上のボートで操縦するドローンを活用してごみを探し、回収しつつ滞留地点を地図アプリで公開中だ。

 国内では前例がないという試みで清掃の労力を軽減、周辺住民や観光客の環境保全に対する意識向上も促している。

 湖底木に絡まるルアーや釣り糸、投棄された廃タイヤなどは、生物が脱出できず死んでしまう「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」という現象を引き起こす。

 10年ほど前に札幌から移住した板谷さんは「生態系が崩れていく」と危機感を抱き、清掃を続けてきた。

 共感した角田さんは周知のため清掃実績のデータ化を模索し、昨年からグーグルマップでごみの位置情報を表示。

 今年に入って「人が潜っている時間には制約があるけど、ドローンであればバッテリーが持つ限り大丈夫」と活用を始めた。

 ごみを収集した湖底からドローンを水面に浮上させ、衛星利用測位システム(GPS)を使って地図上で位置を特定。

 釣り場やキャンプ場などからごみが流れ着く場所が、湖底の地形や水流の影響である程度限定されることが可視化され、清掃の効率化につながった。

 課題は資金繰りで、板谷さんは「現状はボランティア。次の世代につなぐためにも、お金の流れも含めて持続的な活動にしたい」と話す。

 不定期で水中ドローン講習を開く角田さんは「その収益の一部を活動資金に充てることができれば持続する」と見込むが、十分には活路が開けていない。

 ▽当事者意識

 支笏湖の環境が良好に保たれているかどうかを聞いた千歳市の意識調査では、市民の56%以上が「わからない」と回答。国内有数の透明度を誇るものの、市民の保全意識が高いとは言えない。

 北海道大の東条斉興(とうじょう・なおき)助教(50)=水産科学=は、地域住民が知見や情報を周りと共有し、同志を集めながら推し進める活動を「参加型」と定義。

 行政主導では得がたい当事者意識を醸成するとして「環境や生態系にインパクトを与えている張本人たちが、自然との関係を意識することが大事だ」と説明する。

 東条助教は、水中ドローンと地図アプリを活用する進取の気性にも着目。

 「ドローンは人の手が届かない場所の物と関係を紡ぐ有効な手段。グーグルマップのような地理情報システム(GIS)は誰でもデータを上乗せできるので(自発性や主体性など)オーナーシップを波及させられる」

 国内の湖沼や海域は水質改善が思うように進まず、環境省は「地元の住民団体等により、地域の実情に対応した(中略)自然環境保全活動」を支援する事業を展開している。

 板谷さんは「(全国の)湖や海がこのシステムを使ってくれれば」と、ノウハウの継承に意欲的だ。

 ▽言葉解説【支笏湖】

 石狩平野の南端、千歳市の西部に位置。最大水深は360・1メートルで、秋田県の田沢湖に次いで国内2番目に深い。面積は同8位。気候が寒冷で土砂の流入などが少ないため、透明度が極めて高い。湖畔のキャンプ場は西の美笛と東のモラップが4月から10月までにぎわう。「チップ」の愛称で知られるヒメマスが多く生息し、夏場だけ釣りが解禁される。

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