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「入管難民法改正案」 認定手続きの是正が先だ 在留特別許可の拡大を【核心評論】

 政府は入管難民法の改正案を今国会に提出する方針だ。非正規滞在者の強制送還を徹底することが柱。世論の強い反対で廃案となった2021年の法案と、ほとんど変わらない。
 出入国在留管理庁は、在留期間超過などで国外退去を命じられたのに、日本にとどまる外国人がいると強調。改正法案の概要を示した資料などによると、難民認定申請中は強制送還されないとの現行法の規定が乱用されているとして、難民申請を繰り返した人らは送還可能にする構えだ。
 しかし、22年の非正規滞在者は約6万7千人で、前年より19%減った。長期的にも大きく減少傾向にある。摘発された非正規滞在者のほとんどは自主的に帰国している上、入管庁はチャーター機を使った集団送還なども実施している。
 同庁によれば、退去に応じない人は20年末時点で約3100人にとどまる。強制送還制度はおおむね機能しており、法改正の必要性は乏しい。
 そもそも、退去を拒んでいるのは、人種や宗教、政治的意見を理由に母国で迫害の恐れがあると難民申請している人が多い。他は、日本人の家族がいる人や、日本で長く暮らして生活基盤ができている人たちである。
 ところが、日本の難民認定数は過去最多の21年でも74人、難民認定率は0・7%にとどまる。先進諸国と比べ、文字通り桁違いに少ない。
 強制送還すなわち、非正規滞在者を「追い出す」出入国管理が主業務の入管庁が、難民を「受け入れる」認定手続きも担当している矛盾が原因だと指摘されている。
 難民と認定されるべき人が認められないから、何度も申請せざるを得ない。実際、申請を複数回重ねたり、裁判を起こしたりした末に、難民認定された人も少なくない。
 改正法案が可決されれば、真の難民が強制送還され、命に関わる事態を招く恐れがある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も21年法案に対し異例の見解を発表、「非常に重大な懸念」を示していた。
 強制送還の徹底よりも、「難民鎖国」と批判される現状を是正し、諸外国並みに難民を保護することこそ急務だ。
 野党や人権団体が提案するように、(1)難民認定手続きを担う独立行政機関を創設する(2)認定基準を明文化する(3)難民申請者の事情聴取への弁護士立ち合いを認める―などが求められる。
 また、日本人と結婚して子どもがいたり、母国で生活基盤を失っていたりする非正規滞在者には、日本に住むことを認める「在留特別許可」を積極的に出すべきだ。
 少子高齢化で人手不足が続く中、外国人技能実習生らを新たに受け入れるより、既に日本に定着している人々を正規化する方が先決ではないか。(共同通信編集委員・原真)

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