論説委員 掛井一也
かけい・いちや 1959年、青森県弘前市生まれ。1984年入社。沼津支社(現東部総局)、松崎支局、富士宮支局、運動部、デジタル編集部、文化生活部を経て、論説委員兼編集委員。趣味はアナログレコード収集(ジャンル問わず)、サブカルチャー全般。
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生涯修行の覚悟を貫く 書家/柿下木冠さん(10月4日死去 83歳)【追想メモリアル】
現代書とは、現代社会にみずみずしく呼吸する現代造形の一環だ。「いろんなものをそぎ落とし、『白』から書作を見る」。墨だまりが乾くにじみも、また息吹。書線に納得いかなければ、ただ始末するだけ。 中川根町(現川根本町)文沢の生まれ。林業をなりわいとする5軒の小さな集落は、眼下に大井川、遠景に赤石の山並みを望んだ。 高校進学で静岡市の叔母の嫁ぎ先に下宿。山深い郷里の四季や五感を通じて浴びた原風景は、墨線造形の発露であり、「作家の生命そのもの」。すなわち、素材として反映された。 静岡市立商高(現駿河総合高)で書家の教員石川清流氏(後に県書道連盟会長)と出会い、県高校学生書道研究会で生涯の師となる
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直木賞作家の今村翔吾さん 感謝伝える全国行脚
直木賞作家の今村翔吾さんが「まつり旅」と名付け、全国の書店や学校などを巡っている。7月末は静岡県に3日間滞在し、大型書店や個性的な書店の訪問、自身初の受賞文学賞となった伊豆文学賞を主催する伊豆文学フェスティバル実行委員会の講演会にも臨んだ。 思いがけない言葉 家業のダンス教室で講師を務めた異色の経歴の持ち主。「プロフィール欄は受賞歴を削ってでも、その経歴が書き込まれる」と苦笑する。しかし、作家への道は、教え子との逸話が大きく影響した。 家出を繰り返す女子高生の教え子がいた。5度目となった家出の夜、初めて今村さんからの電話に心の内を語り始めた。 調理師になる夢があったが、母は亡父に
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ウクライナにみる人間の業 越境の試み「もうひと踏ん張り」 柳澤紀子さん(美術家)
ロシアのウクライナ侵攻が長期化の様相を見せる中、現代美術家の柳澤紀子さんがロシア・東欧美術を研究する鴻野わか菜早稲田大教授との対談「ウクライナとロシアの芸術家たちの今」に臨んだ。 言論統制下のロシア、戦下のウクライナにあって、反戦平和を発信する芸術家たち。交流を続ける鴻野教授の解説を受け、柳澤さんは「自分の無力を感じながらも、責任をもって作品をつくり、次の世代に伝えたい」と語った。 連日のウクライナ報道から、戦車を描いてみたという。「恐ろしさと同時に美しさもある」と、会場を驚かせた。ベラルーシのノーベル賞作家でジャーナリスト、スベトラーナ・アレクシエービッチの言葉「武器は男のおもちゃであ