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25年春に男性育休取得の目標設定義務化 静岡県内の取り組みは

 厚生労働省は2025年4月から、従業員100人超の企業で男性の育児休業取得率の目標設定と公表を義務付ける方針を固めました。子育てと仕事を両立しやすい環境づくりを目指す中、静岡県は中小企業で働く男性の育休取得に手取り収入が実質10割になるよう独自の支援金を支給する方針を固めています。県内の取り組み、一方で止まらない少子化の現状を紹介します。

男性育休、手取り10割に 静岡県独自支援へ 中小企業の取得促す

 静岡県は2024年度、中小企業の男性従業員が育児休業を取得した場合、手取り収入が実質10割になるよう独自の支援金を支給する方針を固めた。男性の育休取得を促すとともに、育児中の家庭の経済的負担を軽減させるのが狙い。24年度当初予算案に関連費用として1千万円超を計上する。25日までの関係者への取材で分かった。

男性と女性の育休取得率(静岡県雇用管理状況調査)
男性と女性の育休取得率(静岡県雇用管理状況調査)
 国は25年度から、育休給付を拡充して手取りを実質10割にする制度を始める。国に先駆けて取り組むことで少子化対策につなげ、仕事と子育てを両立できる環境づくりを推進する。
 対象は中小企業に勤める男性従業員。14日間以上の育休取得を条件とし、給付日数は最大28日間とする方向で最終調整している。現行制度では、育休中は休業前賃金の67%が雇用保険から支給され、社会保険料免除分を加味すると実質的に手取りの8割がカバーされる。県は休業前の賃金の13%相当額を給付し、対象者の手取り額は実質10割になる。
 県の雇用管理状況調査によると、22年度の男性育休取得率は21・8%で、全国の17・1%を上回った。ただ、女性の取得率92・2%には遠く及ばず、政府は30年に85%へ引き上げる目標を掲げている。中小企業は人手に余裕がないことなどから大企業に比べて男性の育休取得率が低いとされる。共働き世帯が増え、夫婦一緒に子育てするための環境整備を求める声が高まる中、県は支援金の支給を通じて育休取得を後押しする。
〈2024.1.26 あなたの静岡新聞〉

男性育休、取得目標の設定義務化 従業員100人超の企業対象

 厚生労働省は、従業員100人超の企業に対し、男性従業員の育児休業取得率の目標を設定し、公表するよう義務付ける方針を固めた。男性の育児参加を促し、子育てと仕事を両立しやすい環境づくりを目指す。2025年4月から義務化し、対象は約5万社となる。今国会に提出する次世代育成支援対策推進法の改正案に盛り込む。100人以下の企業は努力義務とする。関係者が26日、明らかにした。

厚生労働省
厚生労働省
 男性の育休取得率は22年度調査で17・13%にとどまり、女性の取得率80・2%と大きな差がある。政府は男性の取得率について「25年までに50%」との目標を掲げており、取得率の向上を急ぐ。男女とも育児に参加することを促し、女性に偏りがちな育児や家事の負担を緩和する狙いもある。
 改正案では、従業員100人超の企業に策定を求める「一般事業主行動計画」の中に(1)男性の育休取得率(2)フルタイム労働者1人当たりの時間外・休日労働時間―などの目標を明記するよう義務付ける。計画は労働局に届け出て公表する。対応しない企業には、厚労省が公表を求めて勧告できる。
 現行法は期限が「25年3月まで」と定められている時限立法のため、10年間延長し「35年3月末まで」とする。
 従業員が千人超の企業には、男性の育休取得率(実績値)の公表を23年4月から義務付けている。25年4月からは300人超の企業に対象を広げるため、育児・介護休業法の改正案も今国会に併せて提出する。公表しない企業には指導や勧告、企業名の公表を行うことができる。虚偽の取得率を公表するなど悪質な企業には罰則もある。
〈2024.2.26 あなたの静岡新聞〉

静岡県内男性公務員 育休取得“前進” 研修など環境づくり奏功

 静岡県内の男性公務員の育児休業取得率が上昇傾向にある。静岡県がこのほど公表した2022年度の男性職員の育休取得率は63・5%で前年より18・5ポイント増加し、静岡、浜松両政令市も向上している。若手職員への研修や上司との面談などを通して、育休を取得しやすい環境づくりが進んだとされる。ただ、ほぼ100%に近い女性職員の取得率には依然として及ばず、部署による差や取得期間の短さも課題となっている。

県と静岡、浜松両市の男性職員育休取得率の推移(首長部局)
県と静岡、浜松両市の男性職員育休取得率の推移(首長部局)
 「育休中に何ができるか、事前の面談で頭の中を整理できた」。静岡市葵区役所地域総務課の惣野代陽平さん(34)は20年、長男の誕生に合わせて育休を1カ月間取得した。休業前後に上司と計3回面談を行い、「期間中は育児に集中できた」という。
 同市では男性職員の育休取得率が19年度5・6%、20年度3・4%と、政令市最低が続いた。取得率向上に向け、市は20年度から所属長による「育児フォロー面談」を開始。配偶者が妊娠した男性職員を対象に、出産予定日の6カ月前、2カ月前、復職前の3段階で面談し、取得や復職への支援を強化した。その結果、21年度には取得率42・0%、22年度には38・9%と上昇につながった。
 育休取得期間をみると、1カ月未満が大半を占める。「同僚に迷惑をかけたくない」と考える職員が多いとみられ、惣野代さんも「職場でどう思われるか不安はあった」と話す。市人事課は庁内の意識醸成など改善策を模索する。
 県は満27歳の職員を対象にした研修で14年度から継続して育休制度をPRし、21年度には休業中の業務分担を記した「取得計画書」の作成を導入した。14年度7・0%だった取得率は、21年度45・0%と、都道府県合計40・7%を上回り、22年度は63・5%とさらに向上した。ただ、部署によって差があるとみられ、県人事課の担当者は「取得者と未取得者の双方の意見を聞くなどして、取得率向上に生かしたい」とする。
 取得率自体は上昇傾向を示すものの、政令市で下位に低迷しているのが浜松市。22年度の取得率は未確定だが、総務省が公表した21年度の同市の取得率16・9%は政令市最下位だった。市人事課の担当者は、出産立ち会いなどに適用される休暇は対象職員のほぼ全員が取得していると強調しつつ、育休自体については「制度の周知不足の可能性がある」と分析する。
 岸田文雄首相は3月、男性の育休取得率の目標について、民間企業を含め25年度に50%、30年に85%とすると表明した。静岡市の担当者は「公務員は民間企業と比べ男性の取得率が高い。行政の取り組みを公表し、参考にしてもらいたい」と話した。
教育現場「代替」難しく  総務省発表の「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」は都道府県や政令市の首長部局、警察、消防、教育委員会の各機関について育児休業取得率を集計している。男性職員の取得率はほとんどの自治体が首長部局が最も高く、教委、警察、消防は軒並み低調だ。
 都道府県、政令市とも統計がある教委でみると、県内の21年度の取得率は、県教委は5・7%で知事部局と比べ39・3ポイント低い。静岡市教委は21・0%で政令市では千葉市教委に次いで2番目に高いが、市長部局を21・0ポイント下回る。浜松市教委は3・9%で、政令市で最低だった。
 各教委とも上昇傾向にはあるが、首長部局に比べ取得が進んでいない。児童生徒の「育ち」に関わる仕事で、代替職員の確保の難しさなどが指摘されている。
 このほか、静岡県警12・0%、静岡市消防3・2%、浜松市消防10・6%だった。
〈2023.8.23 あなたの静岡新聞〉

子育てを「苦行」にしてはいけない 日本総合研究所上席主任研究員 藤波匠氏

 2023年の外国人を含むわが国の出生数は75万8631人で過去最少となった。そのデータなどを基に、例年6月ごろに公表される日本人のみの出生数を試算すると、前年に比べて4万人以上少ない72万7千人になることが見込まれる。少子化は危機的な状況だ。

藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員
藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員
 さらに試算では、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す日本人の合計特殊出生率は、過去最低だった22年の1・26を下回ることは確実で、1・20前後に落ち込む見通しだ。
 大幅な出生減の背景には、新型コロナウイルス禍の下で顕在化した婚姻数の減少がある。婚姻数の減少は2~3年後の出生数に影響を与えることが知られており、20年以降コロナ禍によって婚姻数が急減した影響が、23年の出生数の大幅減少につながったとみられる。
 23年4月に国が公表した将来推計人口の出生数(中位推計)では、23年の日本人の出生数を73万9千人と見込んでいる。だが実績はこれを1万2千人ほど下回りそうで、少子化は想定を超えて加速している。
 将来推計人口では合計特殊出生率は30年に向けて徐々に回復し、その後長期にわたり1・30以上を維持する見通しとされた。しかし、足元の23年の実績値は中位推計を下回り、先行きも大きく下振れして推移する展開となることが懸念される。
 婚姻する人の割合の低下は、過去一貫して少子化の一因であったものの、筆者の分析では15年以降は出生数減少の主要因ではなくなってきていた。結婚しても少ない子ども数を希望したり、子どもは要らないと考えたり、出産への意欲の減退が目立っていた。
 ところが、コロナ禍で雇用の不安定化や人の出会いが極端に抑制されたことをきっかけに、婚姻数の減少が顕著となり、再び少子化の主要因に浮上してきたと言える。
 国が実施した出生動向基本調査では、一生結婚するつもりのない人の割合が上昇傾向にあり、とりわけ近年は女性でその傾向が顕著だ。社会進出が進む一方、結婚や出産によって男性よりも家事・育児の負担が増えがちで、それによってキャリアや収入などを失う可能性が高い女性の結婚意欲の低下が表面化したものだろう。
 現在国会に提出されている少子化対策関連法案は、子育て中の世帯の支援に力点が置かれており、出会いの機会を創出し、結婚を促す視点が十分盛り込まれているとはいえない。とはいえ、結婚支援については政府の取り得る方策に限りがあることも事実だ。
 まずは、若い世代に賃金上昇を通じて豊かな未来をイメージしてもらうことが重要になる。加えて、企業や地域に残るジェンダーギャップ(男女格差)やアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)を払拭することも欠かせない。
 子育てを「苦行」にしてはいけない。周囲のサポートや賃金上昇を図ることはもとより、男女が共に社会と家庭での役割を等しく担い、女性の家事・育児負担を軽減できる経済社会を構築するべきだ。政府のみならず、企業や地域社会も含めたあらゆる主体の意識の転換が必要とされている。
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 ふじなみ・たくみ 1965年神奈川県生まれ。東京農工大大学院修了。専門は地方政策、人口問題。著書に「なぜ少子化は止められないのか」など。
〈2024.2.28 あなたの静岡新聞〉