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ダムと生きる~山梨・雨畑の声~(3)超長期政権の肖像 独自の町政「毀誉褒貶」

 「リニア残土を受け入れるか否か、早川町民には選択の機会がなかった。町長には逆らえない」。リニア中央新幹線工事で南アルプストンネル山梨工区などの残土が運び込まれている山梨県早川町の男性はこう訴えた。リニア事業をはじめとした“町の国策”を推し進める10期目の辻一幸町長(80)に「大きな不満はない」などの声も聞かれるが、11選を視野に入れる“超長期政権”は、人口約千人の全国最少の町に光と影を描き出している。

堆砂が深刻化し水害が発生する雨畑ダムを視察する山梨県早川町の辻一幸町長(左から2人目)。同4人目は長崎幸太郎知事=2019年11月、同町
堆砂が深刻化し水害が発生する雨畑ダムを視察する山梨県早川町の辻一幸町長(左から2人目)。同4人目は長崎幸太郎知事=2019年11月、同町
山梨県早川町雨畑地区の位置
山梨県早川町雨畑地区の位置
堆砂が深刻化し水害が発生する雨畑ダムを視察する山梨県早川町の辻一幸町長(左から2人目)。同4人目は長崎幸太郎知事=2019年11月、同町
山梨県早川町雨畑地区の位置

 同町はユネスコエコパークに登録された南アルプス北岳などを源流とする富士川水系早川流域。総面積369平方キロメートルの96%が森林だ。唯一の幹線道路は北上すると細い林道に変わり、北東へ直線距離で約30キロの甲府市へは、南に大きく迂回(うかい)し、約50キロの道のり。県内で最も高齢化率が高い町にコンビニやスーパーはない。
 町の“古くて新しい問題”として再び懸案になっているのがアルミ加工大手日本軽金属の自家発電用ダム「雨畑ダム」だ。堆砂率9割を超え上流で水害を引き起こし、国土交通省や山梨県から行政指導を受け東京ドーム5杯分の土砂を運び出している。ただ土砂は南アルプス山系から絶えず流入し、雨畑地区の住民は「一雨来たら元に戻ってしまいそうだ」と気持ちが晴れない。
 町の姿は40年の辻町政そのものと言っても過言でない。青山学院大を卒業後、運送業を経営。県議選に敗れたのち、2回目の挑戦で1980年に町長に無投票初当選。山村留学や義務教育費無償化などに加え、川根地域と連携し過疎と高齢化のまちの新たな生き方を探る「日本・上流文化圏構想」を策定するなど、意欲的に地域を先導した。平成の大合併では「合併しない宣言」を出し、独自色全開を貫いている。
 陳情などで頻繁に首都圏へ出掛けるフットワークが評判の一方、10選中8選が無投票。「ワンマン」「公私混同」「面倒見はいい」「自分を利することに手段を選ばない」など毀誉褒貶(きよほうへん)の人でもある。水力発電で水量が減った早川に水をよみがえらせるため電力会社と粘り強く交渉する“環境派”の一面もあったという。
 町の中心を母屋に例えれば「離れ」に当たる雨畑地区は長年テレビが映りにくく、小中学校では天候が崩れると道路状況が悪い雨畑地区の子どもを一足早く下校させる習慣が長く続いてきた。雨畑で生まれ育ち今は町外で暮らす70代男性は「辻町長はリニアに注ぐ情熱のほんの一部でも雨畑に振り向けてくれれば」と求める。
 2011年の台風で大量の土砂が雨畑川に流れ込んで以降は、14年に日軽金や山梨県、国交省を交えた対策会議が設置されるなどした。ただ抜本的解決には至らず、同社は国交省の行政指導を受け、昨年9月に雨畑地区土砂対策検討会を設立。リニア残土が運ばれる町内での処分は困難とみられるが、町は「町外搬出を含めて日軽金の対応を見守る」と静観している。
 早川町長選(10月20日告示)は無投票の公算が大きいという。

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