あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

「『時速50メートルの人』に」の巻/子育てコラムあすなろ

 間もなく生後7カ月になる息子がいます。日ごとに寝返りがダイナミックになり、新米パパの私を驚かせています。誰よりも早起きで、朝から布団でゴロンゴロン。寝坊の私をパタパタとたたき、ようやく私が目を覚ますと、にっこり笑って、うれしそうにゴロンゴロンと転がり回っています。
 好奇心が旺盛なのか、キョロキョロも止まりません。とりわけ天井の明かりが気になるようで、行く先々で宙を見上げては首を回しています。妻の話では、新生児室にいたときから、他の子がおとなしくしている中で一人盛んに首を動かしていたようです。今でこそ笑いの種ですが、当時を「心配になってしまった」と妻は振り返ります。
 私の大好きな絵本作家に、いせひでこさんがいます。フランス人の植物学者と日本人の少女の出会いを描いた絵本「大きな木のような人」(講談社)の植物学者は、いせさんの友人がモデルだそうです。すぐに立ち止まっては木々や草花を観察するため、1時間で50メートルしか進まない―。いせさんがこの友人を「時速50メートルの人」と評していたのを最近ふと、思い出しました。
 ゴロンゴロンに、キョロキョロな息子の相手は体力勝負ですが、楽しく幸せな時間です。願わくば息子には、小さな生き物にも目を向けられる「時速50メートルの人」のように健やかに育ってほしい。そう思うものの「言うは易く行うは難し」です。
 いせさんは多忙にもかかわらず、駆け出し記者だった私の取材に何度も協力してくださいました。「なぜ、そんなに親切に付き合ってくれるのですか」と尋ねると、「だって、若い人が成長するのを見るのは楽しいじゃない」。
 時間に追われがちな日々の生活で、息子がのびのびと過ごせるためには、いせさんのような大きな心持ちでいられるかどうか親としての覚悟と度量が問われているのでは、と思う2017年の春です。

(マルコメ)

子育てコラム「あすなろ」(799) 「『時速50メートルの人』に」の巻

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ