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朝鮮人虐殺の歴史と向き合う 在日3世美術家が得た希望

 100年前の関東大震災で、流言を信じた自警団や軍隊が引き起こした朝鮮人虐殺に向き合う在日コリアン3世の女性がいる。現代美術家の金暎淑さん(49)=東京都目黒区。「殺される側」の自分と日本社会との摩擦を恐れて目を背けてきたが、作品作りを通じ、虐殺の史実について継承に臨む日本人の存在に希望を感じた。「事実そのものを見つめたい」と話す。

ビーズを縫い付け、朝鮮人虐殺を表現する金暎淑さんの作品=7月31日、東京都品川区
ビーズを縫い付け、朝鮮人虐殺を表現する金暎淑さんの作品=7月31日、東京都品川区

 福島県郡山市で生まれ育ち、日本で暮らしてきた。周囲の日本人とは良好な関係だが、数年前からインターネットで韓国、朝鮮人らへの排外的な言説が目立ち始め、ヘイトスピーチが横行するなど息苦しさを感じてきた。関心はあったが、深く学ばなかったのは、歴史を知ることで今の日本社会に対してどのような気持ちを抱くか分からず、怖かったからだ。
 転機は今春。虐殺をテーマにした作品展への出品が決まり、住民らの証言を集めた本を読んだ。荒川に架かる旧四ツ木橋付近などでは多数の朝鮮人が軍隊に射殺されたり、川に投げ込まれたりしたことを知った。夜中に1人、絶望と恐怖で泣いた。「なかったことにはできない」と思った。
 救われたのは市民団体が企画した虐殺現場のフィールドワークだった。参加していた日本人の教員や地方から学びに来た人たちと言葉を交わし、史実に向き合おうとする姿に触れて安心した。「殺される側」が抱いた恐怖は、感じる必要はないと気付けた。
 作品には「100年前の景色を、今を生きる私たちが残す」との意志を込めた。当時の橋の写真を印刷した布に、鑑賞する人に赤いビーズを縫い付けてもらい、血で赤く染まる川を表現。一方でビーズは「未来への種」の意味も持たせた。
 「加害や被害という立場を超え、その一歩先に焦点を当てたかった」と金さん。作品展「関東大震災、100年ぶりの慟哭 アイゴー展」は横浜市で20日まで。

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