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SHIZUOKA PRIDE 〜未来へのチカラ〜

トランポリン・海野大透選手

2021年2月26日

端正な顔立ちに弾ける笑顔。愛してやまないトランポリンの話になると自然と声が弾む。日本代表として活躍する海野大透選手(静岡産業大クラブ)の素顔は飾り気のない20歳の好青年そのものだ。トレーニングとアルバイトを両立させながらパリ五輪を目指す次代のエース候補が、幼い頃から縁があり気心の知れたSBSの牧野克彦アナウンサーと対談し、競技にかける熱い思いやプライベートについて語った。

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左:牧野克彦 右:海野大透選手 

対談は不思議な縁で結ばれた2人の思い出話から始まった。

牧野アナ
 街ブラ企画のロケ中にふらっと静岡市にあるご実家のトランポリンクラブに寄らせていただいた時に偶然お宅にいらしたのって1年半ぐらい前でしたよね。
海野選手
 そうですね。
牧野アナ
 ちょうど東京オリンピックを目指して挑む世界選手権の前でした。がんばります、五輪の出場権絶対取ってきますっていう決意を聞きましたね。
海野選手
 本当に世界選手権までもうすぐというタイミングだったんですよね。
牧野アナ
 初めて会ったのは海野選手が小学生ぐらいだと思いますね。おばあさんがトランポリンクラブを運営されていて、わたしが中継でトランポリンを体験させてもらうという企画だったんですよ。その時に横で跳んでみたら全然ジャンプの高さが違って。海野くんのほうが高く跳んでいた記憶があるんですよね。
海野選手
 僕はよく覚えていなかったんですけど(笑)。
牧野アナ
 子供の頃からそういう取材を何本も受けて、何回もテレビに出ていたからですよね。

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マスク越しでも伝わるほど笑顔が弾けた。

実家がトランポリンクラブという環境で育った海野選手。競技の道に進んだのは自然の成り行きだった。

牧野アナ
 原点はご実家のトランポリンクラブ。生まれたときからトランポリンをやるなという空気だったのでしょうか。
海野選手
 始まりは3歳の頃ですね。そこからずっと楽しんで跳ぶようになりました。競技者としてオリンピックとかを目指すようになったのは小学生になってからです。北京オリンピックで日本代表の選手が跳んでいる姿がカッコいいなと思い、真剣に取り組み始めました。
牧野アナ
 どんなところに憧れたんですか。
海野選手
 当時、携帯電話のワンセグで映像を見たんですけど、小さい画面でも分かるぐらい高く跳んで、いっぱい回っていて。それがカッコよかったです。
牧野アナ
 当時のコーチはお父さんでしたか。
海野選手
 そうですね。小学生で競技者になった時、父親はトランポリンの経験がなくて。一からトランポリンを学んで僕のコーチになってくれました。
牧野アナ
 お父さんの熱意がすごいですね。
海野選手
 はい。感謝してますね。
牧野アナ
 どんな日々でしたか。
海野選手
 家の中では父親なんですけど、練習場にいったときには本当にコーチなのですごい厳しくて。僕がやりたくないって言ってもやれっていう感じで指導されて、泣きながら練習したことを覚えています。

緊張を和らげるために行うリラックス方法を実践
緊張を和らげるために行うリラックス方法を実践する場面も

本格的に競技に打ち込むとめきめきと頭角を表し、14歳のときには年齢別大会で世界の頂点に立った。

牧野アナ
 何か転機になったことはありましたか。
海野選手
 小学6年生のときに全日本ジュニアという中学生までの大会があって、そこで上位4人に入ってアンダー14(U−14 )の強化選手になりました。そのときにちょうど東京オリンピックの強化が始まっていました。オリンピックを目指すのは上のナショナルチームなんですけど、高校1年生のときにオーディションをクリアしてメンバーに入れました。それからはトップ選手たちのレベルの高い練習の中に小さいながらついていくという感じで結構頑張ってました。
牧野アナ
 では、高校生時代から日の丸は頭の中に意識されていたわけですよね。
海野選手
 そうですね。中学3年生の時にも日本代表として世界年齢別選手権に出て優勝しました。
牧野アナ
 世界で優勝?
海野選手
 はい。そうですね。
牧野アナ
 それはすごいですね。14歳で世界の頂点に立ったんですね。
海野選手
 そこからですね。世界を感じたというか。世界のレベルを目の当たりにしたので、そこからは気持ちが違いましたね。

トランポリンと共に成長してきた海野選手。競技がさらにメジャーに育っていくことを望んでいるかと思いきや、愛するが故の意外な答えが返ってきた。

牧野アナ
 ちょっと話は変わるんですけど、トランポリンはまだまだマイナー競技という部分もあります。ご自身が続けていく上でこうなったらいいなという思いはありますか。
海野選手
 人生の半分以上をトランポリンと一緒に過ごしてきたので、僕のトランポリンに対する気持ちというのは大きいものがあります。それなので本当に競技が有名にもなってほしい。でも、逆に有名になってほしくないという気持ちもあります。
牧野アナ
 そうなんですか。有名になってほしくないというのはどういうことですか。
海野選手
 逆に軽く見られてほしくないというか。
牧野アナ
 でも有名になったらみんなの理解が深まって、それだけ競技をリスペクトする人も増えるんじゃないでしょうか。
海野選手
 絶対そうなんですけど、あまり有名になってほしくないなとちょっと思ったりします。
牧野アナ
 そうですか。それは好きなアイドルがあまり売れてほしくないという心情と一緒なんでしょうか。
海野選手
 そうですね(笑)。
牧野アナ
 ただ、第一線の選手としてはメジャーにしていくという使命も負っていますよね。そこに向けて何かやろうと思っていることはありますか。
海野選手
 そうですね。メジャーになるための基盤を作るというか、スポンサーの獲得活動だったりというのは結構積極的にしてますね。
牧野アナ
 金銭的な面でいうとなかなかお金が集まりにくい競技ではありますよね。そこの苦労はいかがですか。
海野選手
 練習時間が必要な一方で、スポンサーの方にどれだけ理解をしてもらえるかというのも大事なので、結構大変です。
牧野アナ
 SNSを使って自分が飛んでいる姿を披露されたりもしてますよね。その辺もみんなに見てもらいたいという意識があるのですか。
海野選手
 もちろんトランポリン競技を知ってほしいし、競技人口が増えるのもすごいいいことです。トランポリンという存在を知ってもらえるだけでもありがたいので、遊びの一環としてでもトランポリンが流行っていったらいいなと思います。

競技を続けるためにアルバイトにも勤しむ。そこでは普通の大学生と変わらないほっこりとしたエピソードが。

牧野アナ
 ちょっと耳に挟んだんですけど、居酒屋でバイトをしていたんですか。
海野選手
 はい、してました。
牧野アナ
 アルバイトも競技を続けるためにやっているんですか。
海野選手
 そうですね。居酒屋だと夜のお仕事になってしまうので、いまはスーパーでの品出しのアルバイトに変えて、早朝にバイトをしています。
牧野アナ
 これまでにどんなアルバイトをしてきたんですか。
海野選手
 居酒屋とスーパーと、ファミレスです。ファミレスはデリバリーの仕事です。まだ続けているので、今はスーパーの品出しと2つやっています。
牧野アナ
 ファミレスのデリバリーというのは自転車か何かでやっているんですか。
海野選手
 バイクです。
牧野アナ
 日本を代表するような選手が商品を運んできたらびっくりしますよね。なかなかほかの競技ではないと思います。これもまたトランポリンを続けていくための苦労でしょうね。でも、アルバイトをすることは特にマイナスには思ってないってことですよね。
海野選手
 そうですね。むしろプラスに考えています。早朝のスーパーの品出しだったら、早く起きて自転車をこいでいくので体を動かすことにもなっています。そういう別の考え方が結構できるようになったのでプラスに捉えています。
牧野アナ
 すべての環境を自分のものにしていくというような気概が感じられますね。確かに学ぶことってどんな経験からもありますよね。いろんな学びってありますか。
海野選手
 実は人と話すのがもともと苦手だったんですよ。知らない人だと全然話せないというのがあったんですけど、それもだいぶ克服してビジネスマナー的なことも結構覚えました。
牧野アナ
 アルバイトで怒られたりすることはあるんですか。
海野選手
 体調を崩しやすくて休むことがあるんです。そうすると次に仕事行った時、店長に「大丈夫か、あまり休まないようにしろよ」って言われます。
牧野アナ
 スポーツで世界と戦っている選手が体調を崩して休むなんて、店長も思ってなかったでしょう。体強いだろうって絶対思っているはずですよ。
海野選手
思っていたでしょうね(笑)。結構無理しちゃうんです。居酒屋でアルバイトしていたときも練習終わりに行って深夜2時まで働き、次の日の朝、また練習とかもあったので。
牧野アナ
 ちなみにいまスーパーの品出しは早朝何時から?
海野選手
 6時です。
牧野アナ
 その前に出勤するわけだから、何時に起きるんですか。
海野選手
 5時ぐらいですね。
牧野アナ
 睡眠時間をあまり取ってない時期もあるんですか。
海野選手
 週に3日シフトに入っているんですけど、その日は6時間とか。早く寝れれば8時間寝られますけど。そういう感じです。

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さまざまな苦労を乗り越えて目指した東京オリンピックへの出場はあと一歩で叶わなかった。それも今は前向きに受け止めている。


牧野アナ
 そんな中で東京オリンピックを目指してきて2020年の世界選手権を戦われました。結果は惜しくも代表には選ばれなかったですよね。これはどう受け止めましたか。
海野選手
 初出場でセミファイナルとファイナルを経験できたというのは、僕にとっては本当に大きな成果でした。東京オリンピックを狙って大会に出たんですけど、結局出場権を取れなくて良かったです。
牧野アナ
 なぜですか。
海野選手
 自分の実力が足りないということを本当に痛感したので。逆に今、オリンピックには出ちゃだめだなと自分で思いました。
牧野アナ
 世界選手権の結果は6位でしたよね。それで5位の選手が東京オリンピックに行くことになりました。順位一つの差ですよね。これは相当悔しさがあったのではないのかなと思いますが、いかがですか。
海野選手
 まあ悔しかったんですけど、一番最初に感じたのは、差があるんだなということです。
牧野アナ
 具体的には。
海野選手
 5位の選手は高校、大学でずっとワールドカップの経験をしてきているんです。逆に僕はワールドカップの経験がまったくなくて。世界選手権で初めて大きな世界の舞台を経験しました。そういう経験の差というのがすごくありました。
牧野アナ
 経験の違いというのは試合のどういうところに出たんですか。
海野選手
 僕はすごく緊張するタイプで、世界選手権ではその緊張が抑えられなかったんです。事前合宿が大会の1週間ぐらい前にあったんですけど、そこで腰を痛めてしまって。本番の3日前まで跳べなかったんです。自分で無理していることが分からない状態で練習して、体を痛めて跳べなくなるというのは経験がないせいでもあります。自分の限界を知らなかったというのが大きかったです。

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練習では誰よりも高く跳んでいた。

2024年に予定されているパリ五輪に向けては強い覚悟を胸に秘める。そこにはアスリートとしてのプライドがあった。

牧野アナ
 今目指しているところはどこですか。
海野選手
 パリ・オリンピックでの優勝です。
牧野アナ
 本番は24歳で迎えます。年齢的にちょうどいいんじゃないですか。
海野選手
 そうですね。一番脂が乗っている状態でパリ・オリンピックを迎えられると思います。そこで優勝しないと次は絶対に勝てないと思うので、本気で狙っていきます。
牧野アナ
 得意としている演技はなんですか。
海野選手
 フルインフルアウト(後方2回宙返り2回捻り)という伸身系の技です。トランポリンの技には抱え型、エビ型、伸び型というのがあって、それぞれタック、パイク、ストレートと呼びます。僕はストレートが一番得意です。
牧野アナ
 全体の構成なども含めて海野さんが認められているのは客観的に見てどういうところだと思いますか。
海野選手
 トランポリンは技の美しさ、難しさ、高さ、(着床位置の)移動点という採点ポイントがあるんですけど、僕は高さを一番の武器にしています。高さがある分みんなより多く回れるので、難度点も稼げます。
牧野アナ
 パリ・オリンピックに向けて競技的な視点でいうと、自分はあとどこが良くなれば世界で優勝できると思っていますか。
海野選手
 高さがあるといっても国内での話です。世界に出たら全然歯がたたないので、高さが一番伸ばさなければいけないところですね。
牧野アナ
 さらに自分の強みを磨いていくということですね。
海野選手
 そうです。
牧野アナ
 では最後に、パリ・オリンピックに向けての決意で締めていただいてもいいでしょうか。
海野選手
 5月にある2021年世界選手権の選考を突破し、本大会で優勝を目指します。さらに、その後の世界選手権やワールドカップで優勝を重ねていくということがパリ・オリンピックへの近道になると思います。そのために、まずは日本の絶対的エースになります。

対談を終えて SBSアナウンサー牧野克彦

今回、海野大透選手と会った時、彼の姿が『ドラゴンボール』の孫悟空と重なりました。純粋でまっすぐ。強くなりたいという気持ちで勝負に挑み、その経験を自らの強さにして成長していく様は雰囲気も性格も、さながら孫悟空です。
出会いは10年程前。私は大透選手のご実家である静岡市の「静岡トランポリンクラブ」から情報番組の生中継をしました。おぼろげな記憶では、体のバランスを崩し、台から放り出されそうになりながら跳ぶ私の横で、大透少年は軽快に高く跳んでいました。その技に圧倒されましたが、彼の本当のすごさを知るのはその翌日の話。私は全身の筋肉が固まって布団から起き上がれませんでした。子供がこんなにハードな事を毎日何時間もやっているのかと驚愕しました。今も一見 華奢に見える大透選手ですが、実は体の内側の筋肉の質が一般人とは全く違います。柔軟かつ強靭。そしてそれは心の面でもそうで、飄々と見えますが実にタフなメンタルを持っています。東京五輪代表にはわずかに手が届かなかった大透海野選手ですが、それをしっかりと受け止めてより大きく跳ねていこうとする姿が垣間見えた対談でした。

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