あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

菅首相、退陣表明 静岡県内の反応は

 菅義偉首相は3日、自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)に立候補せず、30日の任期満了で首相を辞任する意向を表明しました。静岡県内の反応をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・安達美佑〉

国会議員の反応は 与党「適切判断」/野党「政治空白」

 菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を表明した3日、間近に迫る衆院選での逆風を危惧してきた静岡県内の同党国会議員には、驚きと同時に「適切な判断」といった肯定的な受け止めが広がった。党内政局ばかりが国民に印象付けられたとの懸念から、「総裁選は政策本位にしなければならない」と危機感がのぞく。野党議員は「コロナ対策に全力を尽くすべき時に政治空白を生む」と批判を強めた。

首相官邸で取材に応じる菅首相。自民党総裁選の不出馬を表明した=3日午後1時8分
首相官邸で取材に応じる菅首相。自民党総裁選の不出馬を表明した=3日午後1時8分
 「正直言って常軌を逸していた。党内の反発も強まっていた」。自民のベテラン塩谷立氏(衆院静岡8区)は総裁選の先送りや総裁選直前での役員人事を模索したここ数日の首相の動きを断じ、「総裁選で新体制を構築し、国民の信頼を得たい」と強調した。
 若手議員は菅氏が衆院選の「選挙の顔」となることに不安を募らせていただけに、「国民、党員の厳しい声が届いた」=井林辰憲氏(同2区)=、「国民の不支持を受け止めたのだろう」=宮沢博行氏(同3区)=と冷静な反応が目立った。「救われた」と本音を漏らす議員もいた。
 菅政権の政策やコロナ対応には一定の評価があったものの、深沢陽一氏(同4区)は「国民に伝わっていない。首相の官房長官時代からの発信の仕方が理解されなかった」との見方を示した。
 県連副会長の城内実氏(同7区)は「大事なのは党利党略や派閥の論理ではなく、国民目線だ」と強調し、総裁選を党の信頼回復の正念場と位置付ける。同じ県連副会長の牧野京夫氏(参院静岡選挙区)も「堂々と総裁選をやって新しい総理総裁を誕生させなければならない」と述べた。
 一方、立憲民主党幹事長代行の渡辺周氏(衆院静岡6区)は「これで菅内閣は死に体になり、政治空白が生まれる。静岡を含む各地の緊急事態宣言が解除されるかどうかの局面でコロナ対応を投げ出した」と批判した。国民民主党幹事長の榛葉賀津也氏(参院静岡選挙区)は「菅首相は引きずり下ろされたのが現実ではないか。国民は『何をやっているんだ』と思っている」と突き放した。

 ■静岡県内国会議員の個別反応
 ◆上川陽子(自民、衆院静岡1区)
 首相として国民の命と暮らしを守る責務があり、大変重い決断に至ったと思う。菅内閣の一員として職責を果たしたい。
 ◆井林辰憲(自民、衆院静岡2区)
 急で驚いた。国民や党員の厳しい声が届いたのだろう。しっかりとしたコロナ対策を国民に示す、政策本位の総裁選を行いたい。
 ◆宮沢博行(自民、衆院静岡3区)
 できる限りの新型コロナ対策はしていたが、菅首相の国民への発信力が足りなかった。国民の不支持を感じ取った適切な判断だ。
 ◆深沢陽一(自民、衆院静岡4区)
 信念や志を持ち、政権運営していたはずだ。世論の批判を受けて総裁選に立候補しないなら残念だ。議論を戦わせてほしかった。
 ◆城内実(自民、衆院静岡7区)
 コロナで大変な時に、自民党が二分三分してはいけない。総裁選不出馬はゴタゴタを避けるための英断ではないか。
 ◆塩谷立(自民、衆院静岡8区)
 総裁選前の役員人事を模索するなど常軌を逸したやり方は受け入れ難かった。総裁選で新体制を構築し、国民の信頼を得たい。
 ◆勝俣孝明(自民、衆院比例東海)
 衆院選を控え、総裁選出馬を断念するほど自民党に対する危機感が強かったのかもしれない。党のためを思って身を引いたのだろう。
 ◆吉川赳(自民、衆院比例東海)
 政務官としてコロナ禍での政権運営の難しさは間近で見た。デジタル庁発足などの功績は引き継ぎ、発展させていくことが大切だ。
 ◆牧野京夫(自民、参院静岡選挙区)
 ここ数日間、いろいろな所で混乱が起きていた。国のトップとしてこれ以上の混乱がないように決断したのではないか。
 ◆大口善徳(公明、衆院比例東海)
 新型コロナとの戦いの中、国民の理解を得ながら政権運営するのは大変だったのだろう。与党の一員として国民の声に耳を傾けたい。
 ◆渡辺周(立民、衆院静岡6区)
 コロナ対策優先と言いながら、実際は投げ出した格好だ。自民党は親分を決めることに必死で、政治空白になった。国民が不幸だ。
 ◆日吉雄太(立民、衆院比例東海)
 政府のコロナ対策は後手後手で、整合性がない政策ばかりだ。菅首相は総裁選直前の人事刷新を考えるなど国民不在の政治だった。
 ◆源馬謙太郎(立民、衆院比例東海)
 国難の時に自ら身を引くのは、リーダーとして好ましくない。自民党内の政局で、コロナ対策に空白が生まれないようにすべきだ。
 ◆榛葉賀津也(国民、参院静岡選挙区)
 自分の選挙しか考えない議員に引きずり下ろされた。コロナ対策を万全にすべき局面で、国の屋台骨が崩れた。与党の責任は重い。
 ◆細野豪志(無所属、衆院静岡5区)
 就任1年での辞任は残念だ。首相が毎年替わるのは国益の観点から望ましくない。新たな首相には長く務めてほしい。
 ◆青山雅幸(無所属、衆院比例東海)
 コロナ対策は緊急事態宣言をだらだらと発令し続け、効果が無いことを繰り返した。決断力に欠け、追い込まれての不出馬は残念だ。
 ◆平山佐知子(無所属、参院静岡選挙区)
 「コロナ対策と総裁選の両立はできない」という首相の言葉には一定の理解と共感を示したい。政治空白がないようにしてほしい。

県民憤り「後任は明確ビジョンを」

 菅義偉首相が退陣する意向を明らかにした3日、静岡県内にも驚きが広がった。静岡など21都道府県に新型コロナウイルスの緊急事態宣言を発令しているさなかの突然の退陣表明。医療従事者や飲食業者からは新型コロナ対策について厳しい指摘が相次いだ一方、観光や東京五輪・パラリンピック開催地の関係者からは施策に一定の評価も聞かれた。次期首相には明確なビジョンとリーダーシップを求める声が上がる。

飲食店の休業などで人影がまばらな繁華街。緊急事態宣言中の菅義偉首相の突然の辞任表明を県民は複雑な思いで受け止めた=3日夜、静岡市葵区
飲食店の休業などで人影がまばらな繁華街。緊急事態宣言中の菅義偉首相の突然の辞任表明を県民は複雑な思いで受け止めた=3日夜、静岡市葵区
 「何を優先するのか判然としなかった」。浜松市助産師会の斎藤由美会長(56)は、菅首相のコロナ対策に厳しい見方を示す。自宅療養者が増えている現状を挙げ、「感染の波が何度も来ることは分かっていたはず。療養施設や人材を確保しておくべきだった」と苦言を呈した。
 静岡市静岡医師会の福地康紀会長(62)も「医療分野に明るくなく、医療界との交流も少なかったと聞いている」と言及。日本医師会の中川俊男会長や政府分科会の尾身茂会長と「信頼関係の構築から始めたのでは」と推察し、次期首相に対して「公衆衛生学的な見地からの医療施策、経済施策、生活支援策を求めたい」と語った。
 浜松市中区の居酒屋「十五」のオーナー、魚尾広夢さん(23)は「安倍政権も後手に回っていた雰囲気はあるが、菅政権は前政権の政策を続けているだけで何もやっていなかった」と批判する。休業要請の協力金では、店の運営費が賄えないという。「臨機応変に素早く行動できる人が首相に」と期待した。
 酒類の提供をやめ、時短営業している居酒屋の男性店主(24)=静岡市葵区=は「協力金などの補助金の支給が遅い。現金商売の飲食店には支給が遅いのは死活問題だ」と訴える。「新しい首相にはワクチン接種を早く完了させてほしい。接種が進めば、安心して営業できるようになる」
 一方、東京五輪・パラリンピック自転車競技の地元開催決定を機に、伊豆市の伊豆箱根鉄道修善寺駅前で自転車貸出所の運営を始めたNPO法人ステキなごえん理事長の後藤順一さん(73)は「準備をしてきた身として、賛否がある中でも伊豆での五輪は観客を入れて開催してもらって良かった」と振り返る。
 熱海市の旅館社長、内田宗一郎さん(48)は、観光支援の「Go To トラベル」をはじめ、不妊治療の保険適用など「評価されるべき施策はあると思うが、コロナと東京五輪を巡る世論に打ち消された印象」と指摘。その上で「科学的根拠に基づく観光施策を打ち出し、それをけん引できるリーダーを選んでほしい」と望んだ。
 

首長のコメント 残念/地方創生に理解/五輪パラ開催良かった…

 川勝平太知事は3日、菅義偉首相の退陣表明を受けて県庁で記者団の取材に応じ、菅政権の新型コロナウイルス感染対策について「(的確に)アドバイスできる人が身近におらず、後手後手に終わった。アドバイザーに恵まれず、本当に残念だ」と語り、不適切なコロナ対応が退陣につながったとする見方を示した。

静岡県庁
静岡県庁
 7月に発生した熱海市の土石流災害を踏まえ「激甚災害に指定してもらい、非常にありがたく思っていただけに驚いた」とも述べ、菅首相の支援に関し「迅速で柔軟だった」と感謝した。
 一方、日本学術会議の任命拒否問題について「すっきりしないままなのは残念だ」とし「安倍晋三前首相の政策を引き継いだが、もう少しできることがあったのではないか」と苦言を呈した。
 旧民主党の衆院議員時代から20年以上、菅義偉首相と親交がある鈴木康友浜松市長は「突然の不出馬報道に驚いている。デジタル庁など、これから菅首相らしい政策が打ち出される矢先のことで、残念でならない」とコメントした。
 菅首相が進める規制改革や地方創生などの施策に協力するため昨年10月に全国の首長約90人で設立し、自らが会長を務める「活力ある地方を創る首長の会」については、「会員から継続を望む声を受けている。しばらくは情勢を見守りたい」と語った。
 田辺信宏静岡市長は「いろいろ考えた上での決断だと思うが、突然のことで非常に驚いている」と受け止め、「これまでの地方創生への理解にお礼を申し上げる」とした。
 東京五輪・パラリンピック自転車競技会場になった伊豆市の菊地豊市長は「日本人メダリストが誕生するなどレガシー(遺産)が残り、開催地として期待していた目標を達成できた。賛否がある中、結果として開催してもらって良かった」と振り返った。県市長会長の立場から次期首相に対し「まずは内政を安定させ、コロナ対策を平常時の延長ではなく、危機管理だととらえて対応してほしい」と注文した。
 同じく自転車競技会場となった小山町の池谷晴一町長も「開催したからこそレガシーをつくれた。五輪は子どもたちが観戦できた」と評価した。一方で、コロナ対策は「一貫性がない」と指摘。「Go To トラベル」などの施策に触れ「感染が拡大することは分かっていた。あまりにも経済を優先してしまった。感染防止を徹底すべきだった」と批判した。次の首相には「地方を重視した政策を」と求めた。
 県町村会長の太田康雄森町長は「苦渋の決断と拝察する。コロナ禍での国政運営は誰が担っても困難だったと思う。残された任期も感染拡大防止に全力で取り組んでいただきたい」と述べた。

経済界「発言に 説得力なし」「GOTOは助かった」

 菅義偉首相が退陣する意向を表明した3日、県内の経済関係者からは驚きの声が相次いだ。この1年間、新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄(ほんろう)され続けた菅政権。いまだに収束の気配が見えず、経済への影響が続く現状に批判が聞かれた一方、デジタル庁創設などを評価する意見もあった。

自民党の臨時役員会に臨む菅首相(右)と二階幹事長=3日午前、東京・永田町の党本部
自民党の臨時役員会に臨む菅首相(右)と二階幹事長=3日午前、東京・永田町の党本部
 静岡商工会議所の酒井公夫会頭は突然の表明に驚きながらも、「多くの国民は現政権に対し、(コロナ対応や相次いだ不祥事などで)説明責任が十分に果たせていないと感じている。それが支持率低下の一因になったのでは」と分析。今回の辞任劇で国民の不信感がさらに加速する可能性があると懸念した。
 「コロナ対策が後手に回り、菅首相の発言は説得力がなかった。国民は自粛や我慢を強いられて疲弊している」と厳しい目を向けたのは県ホテル旅館生活衛生同業組合の加藤賢二理事長。県内観光業も大打撃を受け、経営が立ち行かなくなっている事業者は少なくない。加藤理事長は「新政権には現場の声にもっと耳を傾け、覚悟を持って国民の生活を守ってほしい」と注文した。
 県中小企業団体中央会の山内致雄会長は「死活をかけた状況にある中小企業や小規模事業者は多い」とし、今月の総裁選では国民が納得できる新リーダーが選ばれるよう強く求めた。
 菅政権の約1年間の取り組みをプラスに評価する意見もあった。浜松商工会議所の大須賀正孝会頭は「ワクチン接種も軌道に乗り、携帯電話料金引き下げやデジタル庁の創設など短期間で国民生活にプラスになる政策を打った」。東伊豆町観光協会の石島専吉会長は「昨年のGo Toトラベルは大いに助かった。『コロナ対策に専念する』という会見の言葉は、きっぱりとした印象を受けた」と話した。
 沼津商工会議所の紅野正裕会頭は「誰がトップになっても、コロナ対策をしっかりやってほしい。とにかく政府・与党が一枚岩となって臨むべき」と述べた。