クラフトビールの聖地へ 沼津に醸造所が集まるのはなぜ?
JR沼津駅前に新しいクラフトビール醸造所が誕生しました。沼津市で5カ所目の醸造所。人口20万人規模の地方都市に醸造所が5つ共存するのは国内では異例ということです。沼津をはじめ、静岡県東部には多くの醸造所があります。どうして沼津にはクラフトビールの醸造所が集まるのでしょう。理由を追いました。
ビールの沼津へ 5カ所目醸造所「マスターズブリューイング」誕生
JR沼津駅前に沼津市5カ所目のクラフトビール醸造所「マスターズブリューイング」が誕生した。15日に併設の飲食店を開業する。人口20万人規模の地方都市に醸造所が五つ共存するのは、国内では異例。市内の同業他社や関係者は“クラフトビールシティー沼津”の知名度向上に期待を寄せる。

益谷さんは20代の頃から国内外のビールを愛飲し、同市発祥の「ベアード・ブルーイング」(現・伊豆市)のビールに触発されて醸造を志した。苦みや香りが特徴のIPAを中心に、個性が際立つビール造りを指向する。沼津市内にはすでに他社の四つの醸造所と四つの直営飲食施設があるが、相乗効果を確信する。「東京・月島のもんじゃ焼きのように、ビールを沼津市の代名詞的存在にしたい」と意気込む。
市内の同業他社も歓迎する。今春に醸造を始めた「ONE DROP(ワン・ドロップ)」の元木勝一社長(54)は「沼津に来れば多種多様なクラフトビールが飲めるという認識が全国に広がる」と好反応。「それぞれが特色がある製品で競い合い“ビールの街”をアピールしたい」と前向きに捉える。
〈2022.11.15 あなたの静岡新聞〉
沼津に醸造所が集まる理由は?
酒販店の運営やクラフトビールのイベント企画などを手がける「ZOO」(静岡市葵区)の伏見陽介代表(28)は、沼津に醸造所が集積する理由について「ベアード(醸造開始2001年)が下地を整え、リパブリュー(同17年)などとともに成功モデルを作った。ビールの飲み比べを目的にした旅行客が増えている」と分析する。

〈2022.11.15 あなたの静岡新聞〉
富士山の湧き水に恵まれた地域 製造業者一丸で売り出し
小規模醸造所が集中して全国有数のクラフトビール生産地になっている静岡県東部の製造業者など6社が28日(2021年5月)、県内初で全国でも珍しいクラフトビール専門の協同組合を設立する。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外食や旅行の自粛ムードで、売り上げ減少に苦しむ中、共同して販売や仕入れなどに取り組む体制づくりに乗り出す。

初代理事長に就任予定の片岡哲也柿田川ブリューイング社長(36)は「県東部は富士山の湧水に恵まれた地域。クラフトビールの聖地を目指す。将来的には全県で仲間を増やしたい」と意気込む。
新組合は新たな販売チャンネルとして各社のビールや関連雑貨を扱うホームページを作成する予定。製造の際に出るモルトかすを組合が買い取り、飼料として販売することで新たな収益も確保する。
モルトやホップなどの原材料や資材をまとめて購入することで、仕入れコストの削減につなげる。イベント開催などを通じて、情報発信や業界の交流促進も図る。リパブリューの畑翔麻代表社員(30)は「国内ビール消費量のうちクラフトビールはわずか3%。消費が拡大する余地は十分にある。ローカルながらも多彩なクラフトビールを発信し、市場を開拓したい」と説明する。
設立に向けた手続きは県中小企業団体中央会が支援した。押尾昌俊東部事務所長(48)は「組合になれば仕入れ先との交渉力や行政への発言力も強まる。このビジネスモデルがうまくいけば、全国的にも注目される」と期待している。
〈2021.5.25 あなたの静岡新聞〉
益谷さんが刺激を受けた「ベアードブルーイング」どんなところ?

香りが華やかな「ペールエール」、苦みが強い「IPA」、真っ黒な「スタウト」―。クラフトビール醸造会社「ベアードブルーイング」(伊豆市)の特徴は、品目の多さだ。
「香り、味、色の多様性がビールの魅力」。代表で醸造責任者のブライアン・ベアードさん(47)=米カリフォルニア州出身=は言い切る。ミカンやビワなどの果物、カボチャや唐辛子などの野菜を使う場合もある。「複雑さとバランスの両立」がテーマだ。
沼津港近隣に開いたビアパブで自家醸造ビールの提供を始めたのが2001年。仕込み量は1回当たり30リットルだったが、段階的に設備を拡充した。
二人三脚で歩む妻さゆりさん(47)は「丁寧に伝えれば、世の中に必ず理解されるという信念があった」と振り返る。
工場内のブライアンさんの部屋には、レシピをとじたファイル約150冊が並ぶ。それぞれ異なるビールの名前が書かれている。
レシピは科学の知識や経験に、想像力を組み合わせて考案する。ビールの個性を決める上で、麦芽と並んで大きな役割を担うのがホップ。主に香りと苦みのもとになる。つる性の植物で、受精前の雌花「毬花[きゅうか]」を使う。
米国、ドイツ、オーストラリアなどから20種以上を取り寄せる。国内のほとんどの醸造所は粉末を固めたペレット状のホップを用いるが、ブライアンさんは毬花を乾燥させただけの「生ホップ」に限定する。「できるだけ未加工の材料で仕込む。それがビール造りのあるべき姿」と哲学を語る。
レシピはホップの種類や量、麦汁に投入する時期を細かく設定。タンクで熟成する前にホップを再投入する手法「ドライホッピング」も組み合わせる。業者と工夫を重ね、専用機器まで開発した。
15年前は、生ビールのたるを改造した設備を使い、自宅ベランダで試験醸造を繰り返していた。定番のIPAなどは、そのころにレシピができた。「『地ビール』と呼んでほしくない。これは職人が創作する『クラフトビール』」とブライアンさん。新しい発想のレシピ考案は続く。

「ライジングサンペールエール」(左)は醸造所の代名詞的存在。現役醸造家を含め、多くの人をクラフトビールの世界へ導いた。米国北西部産の生ホップを使用。ホップを入れて発酵させた麦汁に再度ホップで香り付けをする手法「ドライホッピング」を行っている。かんきつ系の清涼感あふれる香りと、ホップの苦み、モルトの甘みのバランスに優れる。
「ホップハボックインペリアルペールエール」は、米国やニュージーランドのホップ6種を使い、ドライホッピングを3回行っている。複雑で力強いホップの個性を楽しめる。
〈2021.6.28 あなたの静岡新聞〉