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ロシアとの縁 ディアナ号の歴史知っていますか?

 連日ウクライナ情勢が報じられています。富士市は、幕末に田子の浦沖で沈没したロシア船ディアナ号の救出活動を縁に、ロシアと長年の友好関係を築いてきました。沼津市戸田では代船として「ヘダ号」が建造されました歴史もあります。静岡県東部の自治体とロシアの友好の歩みを振り返ります。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・寺田将人〉

津波で沈没、人命救助の歴史を日本遺産に 富士の日ロ友好協会要望

 富士市日ロ友好協会は23日、幕末のロシア船ディアナ号に関連する史実を、文化庁の「日本遺産」に登録する手続きを進めるよう求める要望書を富士市に提出した。

要望書を提出する太田会長(右から2人目)ら=富士市役所
要望書を提出する太田会長(右から2人目)ら=富士市役所
 プチャーチン率いるディアナ号は幕末に下田港を訪れた際、安政大地震の津波に遭って損傷した。修理のため戸田港へ向かう中で嵐に見舞われ、富士市宮島沖で沈没したとされる。500人に上る乗組員を同市の漁民が救助し、その後の条約調印や日本初の洋式船「戸田号」建造につながった。
 要望書では、人命救助に全力を投じた郷土の偉業を後世に伝える重要性を訴えたほか、江戸末期に県東部で人道的活動や開国への歩みが記されたことは日本遺産にふさわしいとし、沼津市や下田市と協力して認定を目指すことを求めた。
 斉藤斗志二名誉会長や太田康彦会長らが市役所を訪れ、小長井義正市長に要望書を手渡した。斉藤名誉会長は「日本一の富士のもとで世界に誇る美しいストーリーがあったことを全国、世界に発信したい」と述べた。
〈2022.05.24 あなたの静岡新聞〉

沈没の代船「ヘダ号」 日本初の洋式帆船 沼津市戸田で建造

※2021年3月22日付静岡新聞朝刊「美と快と 県内収蔵品物語」より

(上)平面 (中)側面 (下右)正面と後背面 (下左)帆柱(図面4枚の縮尺比は掲載とは異なる)
(上)平面 (中)側面 (下右)正面と後背面 (下左)帆柱(図面4枚の縮尺比は掲載とは異なる)
 安政2年3月22日(1855年5月8日)、戸田港(現沼津市)から1隻の帆船がロシアに向けて出発した。田子の浦沖で沈没したロシア船「ディアナ号」の代船として約100日かけて同地で建造された「ヘダ号」。ディアナ号のプチャーチン艦長が戸田への感謝を込めて命名した。同市戸田造船郷土資料博物館の展示品は、日本で初めて造られたこの洋式帆船の意義を雄弁に物語る。

  日ロ外交の端緒である「ヘダ号」の物語を伝える上で最も重要な資料が、同船の設計図だ。上から、横からなど四つの視点による図面3点と、帆柱の形を示した図面1点の計4点。写真が現存しないヘダ号の姿を知る、唯一の手掛かりである。
  描き手は戸田の船大工石原藤蔵。造船に当たり、近在の船大工ら約150人が集められ、石原ら地元の棟梁[とうりょう]7人がロシア人から指導を受ける造船世話掛に選ばれた。石原らは、ロシア人が所持していた船舶雑誌の論文を、オランダ人通訳を介して設計図に落とし込んだ。長さの単位フィートから尺貫法に変換するなど、日本人の職人が理解できるよう工夫されている。
  博物館に残るのは、原本を藤蔵が書き写した図とみられる。開館時に石原家が寄託した。藤蔵から5代目の石原重利さん(74)=同市=は「封筒に入った状態で、墨つぼや定規など大工道具と一緒にたんすにしまわれていた」と回想。同館の筒井久美子学芸員は「和紙に墨で線を引いている。竹製のペンを使っているのでは」と推測した。
  近年、封筒の表書きを足掛かりに、設計図が戦前の海軍省直属「横須賀海軍工廠」に渡ったという説が浮上している。伊藤稔信州大名誉教授(沼津市)の調査によるもので、戦艦大和の設計者である松本喜太郎・海軍造船大尉の目に触れた可能性もあるという。
  伊藤名誉教授は「軍艦に搭載するカッター(帆走船)設計の参考にしたのかもしれない」と仮説を立て、研究深化に意欲を示している。

  ■ヘダ号の模型も展示
 
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「ヘダ号模型」 浦田康一作
 
  大阪市の模型愛好家が制作したヘダ号の48分の1模型は、開館後の1990年に寄贈された。同館のモニュメントとして親しまれている。2007年、ヘダ号設計図などとともに経済産業省の近代化産業遺産の認定を受けた。
  石原藤蔵の設計図を基につくられており、近代洋船の特徴である船底中央を船尾から船首まで縦に通す「竜骨」という強度部材も見られる。底が平らな和船との違いがはっきり分かる。博物館の筒井学芸員は「設計図どおり、前から見るとスッとしていて、後ろから見ると丸みを帯びてぼてっとしている」と評した。
   (※年齢、肩書、表記などはいずれも当時)

〈メモ〉沼津市戸田造船郷土資料博物館  沼津市戸田2710の1。1967年、ヘダ号の建造地やプチャーチン艦長の遺品などが一括して県指定史跡になったことを契機に博物館建造の機運が高まり、69年に「戸田村立造船郷土資料博物館」として開館した。民間企業や住民から寄付を募り、ソ連政府からは500万円の寄付があった。造船に関わる道具類や関係文書、関係者の肖像画のほか、ヘダ号の模型、日ロ交流の足跡をたどる資料など、寄託品を含め約500点を収蔵する。
 
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沼津市戸田造船郷土資料博物館

いわれのない誹謗中傷に苦しまないで 富士市役所で平和の訴え

 連日報じられるウクライナ情勢を受け、富士市は9日、市役所各課の名前を表示するプレートに平和を訴える掲示物を掲げる取り組みを始めた。核兵器廃絶平和都市宣言をしている都市として世界平和を訴える。

世界平和への意思表示をするため掲げられた掲示物=富士市役所
世界平和への意思表示をするため掲げられた掲示物=富士市役所
 掲示物は、ウクライナ国旗に平和の象徴であるハト3羽が飛ぶデザインに仕上げた。戦争や核兵器使用への反対、苦境にあえぐウクライナ市民に寄り添う意思を表明する。
 同市は、1855年に同市沖で沈没したロシア船ディアナ号の救出活動を縁に、ロシアと長年の友好関係がある。市内には友好協会やロシア語教室もあり、ロシア人がいわれのない誹謗(ひぼう)中傷に苦しまないようにも腐心している。
 市シティプロモーション課の秋山千賀子課長は「国籍や人種に関係なく、多くの人が一日も早い平和を願っている。その思いを共有したい」と話した。
 〈2022.03.12 あなたの静岡新聞〉