日軽金発電所 取水量改ざんか?
駿河湾産サクラエビの不漁を契機に注目される日本軽金属が、静岡、山梨両県の富士川水系に設置した四つの水力発電所の一つ、波木井発電所を巡り、国に提出した過去の取水量報告書に不自然な記載があることが分かりました。専門家は報告書の改ざんの可能性を指摘しています。同発電所では戦前から持つ水利権の目的外使用が行われていたことが発覚し、取水量を縮減する水利権の見直しが進んでいます。新たに分かった疑いについて1ページにまとめます。
〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉
取水量報告書に不自然な記載 識者「改ざんの可能性」
国土交通省が河川維持流量を設定するため水利権を縮減した上で更新を認める方向の日本軽金属波木井発電所(山梨県身延町)を巡り、同社が国に提出した過去の取水量報告書に不自然な記載があることが、23日までの静岡新聞社の調査で明らかになった。水利権問題に詳しい専門家は取水実績の信用性に疑問を投げ掛ける。

例えば03年7月は31日間のうち、7日間は毎秒29・77~29・94立方メートルだったが、残る24日間は全て同30・00立方メートルと記載され、許可量上限いっぱいの取水量だった。
同発電所には早川沿いの榑坪(くれつぼ)取水せきと、東京電力早川第1発電所放水路からの水が流入し、合計流入量は瞬間ごと変化する。これに対し、発電用取水量は、許可量の毎秒30・00立方メートルを超えないよう、発電所タービン導水路に入る前の自記水位計と連動した「自動調整ゲート」(幅4・3メートル、高さ4・2メートル)でコントロールされることになっているという。
元都庁職員で「水源開発問題全国連絡会」共同代表の遠藤保男氏は「『平均取水量を連日、毎秒当たりの上限いっぱいに制御した』との取水量報告書は数学的にありえず、日軽金がそれを『可能』とするなら、それを証明するデータなどの開示の求めに応じないのは甚だ疑問だ」と訴える。制御には瞬間ごとに変化する流入水量を、ゲート1門で24時間、常時微調整する必要がある。だが、ある専門業者は「ゲートの昇降速度はせいぜい1分間に数十センチ程度」と証言する。
遠藤氏は「毎秒30・00立方メートルの許可量を超えた取水の疑いが否定できない。取水実績が改ざんされていた可能性もある」と指摘する。
〈2022.03.24 あなたの静岡新聞〉
全国の事業所で改ざん、過去に次々発覚
日本軽金属波木井発電所の報告書に頻出した、許可上限いっぱいの取水を意味する「毎秒30・00立方メートル」が最後に記載された2006年10月。中国電力土用ダム(岡山県)では、上限設定プログラムと呼ばれる機器を使った「頭切り」と呼ばれる取水記録の改ざんが明らかになっている。

国の指示に対し、意図的に不正を報告せず、水利権が取り消されたケースもある。
JR東日本信濃川発電所では、08年夏に地元自治体が国に行った情報公開請求で、取水量報告書に許可量いっぱいの取水実績が連日記載されていたことが判明。これをきっかけに不正取水が明らかになり、後に国交省は信濃川発電所の水利権を取り消した。
同様に許可量いっぱいの取水実績が連日記載されていた日軽金波木井発電所について、同省関東地方整備局は23日までの取材に「当時、日軽金からは観測・記録の適正性を阻害するような措置はなかったとの報告を受けた」とコメントした。
〈2022.03.24 あなたの静岡新聞〉
1987~91年にも不自然な記載が
日本軽金属波木井発電所(山梨県身延町)の国への報告書に不自然な取水量の記載が見つかった問題で、1980年代後半の報告書にも同様の記載があったことが24日、分かった。記載は「平均取水量を連日、許可上限いっぱいの毎秒30・00立方メートルちょうどに制御した」との趣旨だが、専門家は技術的な視点から記載の信憑(しんぴょう)性に疑問を呈していて、既に明らかになった2000年代の報告書の前にも不自然な記載が存在することを示した。

今回見つかったのは、日軽金が1992年4月に国に提出した向こう30年間の発電用水利使用許可申請書に添付されていた過去5年間の報告書への記載。
同発電所の水利権は1922(大正11)年に許可された。国の水利使用規則は「水利使用者は毎日の取水量を測定し、月ごとに結果をとりまとめて報告しなければならない」と義務付けている。ただ、国土交通省関東地方整備局は「取水量報告書は基本的に過去20年間分に限り保管義務がある」としている。
静岡新聞社は24日、日軽金蒲原製造所に「過剰取水の可能性などについて内部調査を行うか」などの質問をしたが、同製造所は同日夕、「社内事情により本日の回答が困難な状況となっている」と回答した。
〈2022.03.25 あなたの静岡新聞〉
水利権を目的外使用 アルミ製錬せず、売電
大手アルミニウム加工メーカー日本軽金属(東京都港区)が、アルミ製錬のためとして静岡、山梨両県の富士川水系に設けた四つの水力発電所で得た電力を、売電に転用していることが31日(※2019年12月)、分かった。発電用の水は、山梨県の雨畑ダムを起点に導水管を経由して駿河湾に注ぎ、濁りがサクラエビ漁に及ぼす影響が議論を呼んでいる。河川管理者の国土交通省は水利権の目的外使用の可能性があると判断、近く実態調査に乗り出す方針だ。

四つの水力発電所は同社蒲原製造所に電力を供給する角瀬、波木井、富士川第一、富士川第二。2019年8月から停止中の角瀬発電所以外は、いずれも稼働している。
開示資料によると、四つの水力発電所の水利権に関する同社の許可申請書添付の水利使用計画説明書には「電力はアルミ製錬上欠くことのできない重要なもの」(波木井)などと記載。「売電」の文字はなかった。
同省は取材に対し「目的に応じた必要水量を許可している。同社に対して調査に入る予定だ」と説明した。
アルミの製錬過程では、ボーキサイト鉱石から取り出した原料のアルミナを電気分解する際、ばく大な電力を必要とする。同製造所は14年3月末、設備の老朽化を理由に製錬事業から撤退した。
こうした事態を受け、3月に水利権更新時期を迎える波木井発電所では従来通りの水量が認められない可能性も浮上。同社は取材に対し「経営に関わる事柄であり、回答は控える」としている。
■戦前から国策で取水
資料によると、日本軽金属蒲原製造所は1940年アルミ製錬工場の操業を開始。アルミは太平洋戦争開戦前の国防態勢確立に向けた軍需資材として欠かせず、国策として巨大な水利権が認められてきた経過がある。
同社は富士川水系に六つの自家発電所を持ち、最大出力は電力会社以外の一般企業としては有数の計約14万2500キロワット。同製造所はこれを支えに、国内製錬工場の撤退が相次ぐ中、日本唯一の拠点として2014年まで製錬事業を継続した。06年に富士川流域住民の意見を反映し国が策定した富士川水系河川整備計画は、日軽金による発電取水について「富士川に戻されることなく駿河湾に直接放流され中下流部の流量に影響を与えている」などと指摘している。
〈2020.01.01 静岡新聞朝刊〉