乳がん手術後も気軽に温泉へ 胸元覆う「入浴着」知って…静岡県内で普及活動

 10月は乳がんの早期発見・治療を呼び掛ける「ピンクリボン月間」。乳がんなどの手術をした人が公衆浴場で胸元を覆うことができる「入浴着」を知ってほしいと、静岡市清水区の乳がん経験者の女性らが啓発動画を制作、公開している。入浴着のPRを通し、触診など日頃のセルフチェックの大切さも伝えたいという。静岡県内の温泉、温浴施設でも入浴着について啓発を進める動きが出ている。

入浴着の啓発動画について語る増田郁理さん(左)と山田蓉子さん=10月中旬、静岡市清水区
入浴着の啓発動画について語る増田郁理さん(左)と山田蓉子さん=10月中旬、静岡市清水区
入浴着の貸し出しや啓発イベントを始めた「求夢荘」女将の滝浪利枝さん=10月上旬、川根本町
入浴着の貸し出しや啓発イベントを始めた「求夢荘」女将の滝浪利枝さん=10月上旬、川根本町
入浴着の啓発動画について語る増田郁理さん(左)と山田蓉子さん=10月中旬、静岡市清水区
入浴着の貸し出しや啓発イベントを始めた「求夢荘」女将の滝浪利枝さん=10月上旬、川根本町

 入浴着の啓発動画を公開したのは、静岡市清水区の増田郁理[かおり]さん(43)と滋賀、兵庫、徳島の3県の乳がん経験者計5人でつくる「入浴着普及委員会 bath to LOVE(バストラブ)」。増田さんが7月に乳がん経験者を対象に開いたオンラインのお茶会に参加したメンバーで結成した。
 増田さん自身、「無類のお風呂好き」。昨年9月に右乳房の全摘手術を受ける以前は、週1回、夫や娘と温浴施設で過ごすのが習慣で、年数回は温泉旅行に出掛けていた。だが、手術後は温泉、温浴施設へ行くのをためらうようになった。
 インターネットで入浴着の存在を知ったものの、認知度が低く、施設や利用客からの理解が得られるか不安に思い、使用できずにいたという。お茶会で出会ったほかのメンバーも似た思いを持っていると知り、入浴着の普及活動に取り組もうと考えた。
 増田さんに賛同し、焼津市のお絵描きムービークリエイター山田蓉子さん(35)が動画制作への協力を快諾。ホワイトボードにイラストやメッセージを書いていく手法を用いて、手術痕を気にして温泉に行けない女性の気持ちや、入浴着は衛生面からも問題がない点などを約2分間の動画にまとめた。
 増田さんは、乳がん経験者の中には「入浴着を使わずに入浴したい」という声もあることに触れた上で、「使う、使わないはあくまでも個人の自由。ただ、選択肢は多い方がいい。シャワーキャップのように、使いたいと思う人が気軽に使える日がくれば」と願う。
 啓発動画は9月下旬から、ユーチューブチャンネル「入浴着普及委員会 bath to LOVE」などで公開している。メンバーは各県の温泉、温浴施設に動画を紹介し、館内での上映や、ウェブサイトのリンクなどの協力を呼び掛けている。増田さんは「見た人に入浴着を知ってもらうと同時に、乳がんや自身の体に関心を持ってもらい、セルフチェックや検診にもつながればうれしい」と話した。

 ■増える無料貸し出し
 静岡県内では、乳がん手術の経験者や入浴着について理解を示し、啓発に力を入れる温泉、温浴施設が増えている。
 川根本町の寸又峡温泉「求夢[きゅうむ]荘」の女将[おかみ]滝浪利枝さん(47)は、増田郁理さんらが啓発動画を公開したのを契機に、入浴着の無料貸し出しを始めた。18日には「姫の日 ピンクリボンをつなぐ」と題した女性限定の温泉開放イベントを開いた。啓発動画を館内で流したほか、乳がんに関する資料なども配布した。
 「仕事や子育てで日頃忙しい女性には、ゆっくり休み、自分の体と心を見つめ直す時間が必要」と滝浪さん。今後も3カ月に1回ほどのペースで「姫の日」を実施していく予定。また、入浴着の貸し出しや着用を歓迎する県内施設の情報の集約化にも、増田さんらと取り組んでいきたいという。
 焼津市の「笑福の湯」や静岡市清水区の「駿河健康ランド」など県中部の温浴施設6施設も10月から連携企画「SHIZUOKA FUROJECT(静岡フロジェクト)」の一環として、入浴着の無料貸し出しや啓発に取り組んでいる。笑福の湯は「女性、男性問わず、1人でも多くの人に乳がんや入浴着について知ってほしい」と館内の目立つ場所に入浴着を展示している。
 乳がんの手術をした人に温泉を楽しんでもらえる環境づくりを進める全国の温泉施設の一部は、認定NPO法人J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動、大阪市)が運営する「ピンクリボン温泉ネットワーク」のウェブサイトなどでも確認できる。

 ■市町の検診 休日にも実施
 国立がん研究センターによると、乳がんは日本人女性の9人に1人が罹患[りかん]する。女性のがんの中では最も多いがんで、特に40代後半から60代後半の罹患率が高い傾向にあるという。
 乳がんは自分で見つけることができるがんの一つ。乳房にしこりがないか▽形に変化がないか▽乳頭から分泌物が出ていないか―など、月1回のセルフチェックが大切という。国は40歳以上の女性に対し2年に1回、マンモグラフィーによる乳がん検診の受診を推奨している。
 市町など自治体が実施する乳がん検診は、費用の多くを公費で負担していて一部の自己負担で受けられる。県によると、2019年度、31市町が土曜や日曜、祝日にも乳がん検診の機会を設けている。11市町がインターネットでの検診申し込みを行うなど、受診者の利便性向上を図る取り組みが進められている。

 〈メモ〉入浴着 乳がん患者用下着の開発会社「ブライトアイズ」(東京都)が1998年に国内で初めて考案した。水をはじく布地で作られ、胸部をカバーする。現在は複数のメーカーから販売されている。厚生労働省は専用に開発された入浴着について「浴槽に入る前に、付着したせっけんをよく洗い流すなど清潔な状態で使用する場合は、衛生上の問題はない」として、着用に理解を求めている。乳がん支援コミュニティーMamma(滋賀県)が9月に行ったインターネット調査(回答者336人)では、入浴着を「知っている」と答えたのは約3割だった。
 

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動 画

  • 入浴着の啓発動画(入浴着普及委員会 YouTubeチャンネル)