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テーマ : 熱海市

社説(10月15日)新聞週間に寄せて 生活生業の道しるべに  

 岸田文雄首相が衆院を解散し、事実上の選挙戦に突入する中、第74回新聞週間(21日まで)が始まりました。
 日本新聞協会は今年の標語を発表し、御殿場市の田名瀬新太郎さん(66)の「暗闇を ファクト(事実)の光で 照らす記事」が入選しました。田名瀬さんは標語に込めた思いをこう語ってくれました。
 「新型コロナ禍は先が見えない。為政者が自分に都合が悪いことを『フェイク(うそ)』と決め付け、それを多くの人が信じてしまい、民主主義も暗闇の時代に入った。記者が取材して事実を伝える新聞が最も信頼でき、生活の道しるべになる」
 コロナ禍で苦しむ人々が1票の選択をするとき、何より、民主主義と人権、人々の生活生業を守るため、新聞が果たす責任と役割はますます強まっています。
 デジタル技術の進化で、誰もが、どこからでも情報を発信できるようになりました。それらの情報は時に、真実を伝え、言論を守る取材報道と役割が相反します。田名瀬さんの思いを、臆測やデマが入り乱れる情報洪水の中で「新聞は役割を果たせ」との叱咤[しった]激励と受け止めます。

 ■目となり耳となり
 ノーベル賞委員会は今年の平和賞をロシアとフィリピンのジャーナリストに授与すると発表しました。強権下で続けた「民主主義と恒久平和の前提である表現の自由を守る努力」をたたえました。
 権力に執着する為政者にとって、真実を伝える記者は敵です。情報を思いのままに操ることが権威の維持に直結するからです。首長や地方行政を監視する地方新聞も、その役割の一端を担っていることに変わりありません。
 そのため、私たちは第一に、読者の目となり耳となり、現場を訪ね、読者の「知りたい」に応えることを約束します。
 地元住民ら26人の命を奪い、1人が行方不明になっている熱海市伊豆山の土石流災害では、多くの記者を現地に投入してきました。人々は惨事の状況を映像で目の当たりにしました。ただ、甚大な被害が天災なのか人災なのか、行政が果たすべき役割を尽くしていたかは不明です。
 静岡県内では原発や地震防災をはじめ、継続取材が必要な課題が山積しています。JR東海によるリニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の流量減少問題や、サクラエビの不漁を巡る問題は、記者の丹念な取材により、次々と課題や問題点が浮かびました。
 記者が真実を掘り起こす努力を怠った途端に、問題は覆い隠され、放置されてしまうのです。
 第二に、わたしたちは多様な論点や解決の選択肢を示します。記者は読者一人一人の期待を背負って取材に当たっています。静岡新聞の記者ならばと、率直な思いを語ってくれる取材相手にしっかり向き合います。

 ■選択肢を提示
 「必死に対策をやってきたのに、なぜなのか」。今年8月、クラスター(感染者集団)が発生した放課後児童クラブの指導員が心情を吐露してくれました。子どもたちを狭隘[きょうあい]な空間で活動させざるを得ないリスクがコロナで露呈したと記者は報告しました。
 県勢のメダルラッシュに沸いた東京パラリンピックを「健常者と障害者が理解し合うために必要な時間を短縮してくれた」と評した関係者がいました。バリアー解消は途上で、多くの支えが必要です。
 地域の話題を伝える紙面は「交流の場」であり、コミュニティーを形作る役割も果たします。それは、人々の多様な生き方、価値観を伝えることにつながります。
 日本新聞協会は「新聞は歴史の記録者であり、真実の追求は記者の責務です」としました。変わるべきこと、変わってはいけないことを自らに問い掛けながら、新聞は歩み続けます。

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