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東京パラリンピックの「遺産」 共生社会道半ば…環境構築に期待【解説・主張しずおか】

 新型コロナウイルスが世界的に大流行する中、無観客で開催された東京パラリンピック。選手たちは競技を通じて、誰もが活躍できる共生社会の実現を訴えた。大会の意義や成果をどう社会変革につなげるか。静岡県にも課せられたテーマだ。

誰もが活躍できる共生社会の実現を訴えた東京パラリンピック。閉会式では「違いが輝く世界」を掲げ、多様性と調和の概念を柱に据えた=9月5日、国立競技場
誰もが活躍できる共生社会の実現を訴えた東京パラリンピック。閉会式では「違いが輝く世界」を掲げ、多様性と調和の概念を柱に据えた=9月5日、国立競技場

 161の国・地域と難民選手団を合わせ、史上最多の4403人が出場した東京パラは、異なる個性や価値観を認め支え合う「インクルーシブ社会」の発展を目標に掲げた。
 国内では東京パラを契機とし、4月に改正バリアフリー法が全面施行されるなどし、目に見える形で要配慮者へのハード対策が急速に進んだ。国土交通省によると、駅などの1日当たり3千人以上が利用する旅客施設のバリアフリー化率は、2019年現在で90%を上回る。国はパラスポーツ強化にも乗り出し、日本パラリンピック委員会の調査では、約7割の選手が国からの強化費や企業支援などが充実したと回答した。
 しかし、共生意識や文化の浸透は道半ばと言える。英国やオーストラリアなど海外の水泳大会は健常者と障害者が同じレースで泳ぐ仕組みが定着しているのに対し、日本はいまだに五輪、パラのように障害の有無で大会を別々に実施している。障害を理由にスポーツクラブへの入会や施設利用を断られる事例も少なくないという。
 英国を拠点に活動し、東京大会でメダル5個を獲得した競泳男子の鈴木孝幸選手(34)=浜松市北区出身=は「現地は12年ロンドンパラの良い影響が受け継がれている」と指摘。幼少期から通常学級に通い、強い反骨心や向上心が養われた経験から「健常者と障害者が日常的に接する環境作りが必要ではないか」と語る。
 こうした課題に着目し、全国では神奈川県教委が16年度に知的障害のある生徒が高校の通常学級に入る「インクルーシブ教育」を導入した。現在は14校が入試特別枠を設け、授業や課外学習に一緒に取り組む環境を整える。同県の担当者は「障害のある生徒の進路選択が広がったほか、周囲の仲間も自然と共生意識が芽生える」と成果を語る。
 一方、静岡県はスポーツ競技の実績などを重視した入試選抜制度「学校裁量枠」があるが、「障害のある生徒に特化した制度はない」(県教委)。本県も共生社会の発展を目指し、あらゆる面で新たな仕組み作りが求められている。
 多くのパラアスリートが「障害は個性」と語るように、生きづらさを感じる“壁”は社会の側にあるのではないか。東京パラのレガシー(遺産)構築に向け、日本社会が試されている。
 

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