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テーマ : クラフトビール新世代

1杯の「原型」に衝撃 外食業から醸造家へ GKB(御殿場市)加田雄一郎さん【しずおかクラフトビール新世代⑯】

 東京、新宿御苑近くのビアパブで飲んだ1杯のビールが人生を変えた。GKB(旧御殿場高原ビール)=御殿場市=の副工場長、加田雄一郎さん(38)=熊本市出身=は5年前を振り返る。

検査のためにビールを取り出す加田雄一郎さん=8月下旬、御殿場市のGKB
検査のためにビールを取り出す加田雄一郎さん=8月下旬、御殿場市のGKB
「ピルス」(左)と「御殿場コシヒカリラガー」
「ピルス」(左)と「御殿場コシヒカリラガー」
検査のためにビールを取り出す加田雄一郎さん=8月下旬、御殿場市のGKB
「ピルス」(左)と「御殿場コシヒカリラガー」

 「チェコのラガービール『ピルスナーウルケル』を飲んだ瞬間、衝撃を受けた。ホップの苦みをしっかり感じて、モルトの甘みも十分。バランスが自分の好みにどんぴしゃだった。『ビールをつくりたい』という強い気持ちが湧いた」
 ピルスナーウルケルは国内大手の主力スタイル「ピルスナー」の原型とされる、19世紀半ばにチェコで生まれたビール。現地から空輸し、生で飲ませる店は希少だった。
 都内の大学で欧州の文学、哲学を学び、大手外食会社に勤めて13年が経過していた。ビアパブのカウンター席で突如生まれた衝動には、偶然の出会いが重なった。
 同じ日、カウンターで店主とビール談議に花を咲かせていたのが、当時反射炉ビヤ(伊豆の国市)の醸造担当だった阿久沢健志さん(34)。初対面だったが直談判し、後日反射炉ビヤを訪ねた。ビール業界や醸造のあれこれを教わった。
 「本当にやりたいことを見つけた」。阿久沢さんから県東部の醸造所を複数紹介された。見学名目で御殿場高原ビールを訪ねた時は履歴書を懐に忍ばせ、鮎沢昌史醸造部長(52)に半ば押しつけて帰ってきた。
 3カ月ほどたち、鮎沢さんから採用の連絡が来た。「このチャンスは逃せないと感じ、即決した。後から考えたら、完全に押しかけ入社だった」
 GKBは1995年から醸造を続ける国内屈指の老舗クラフトメーカーだ。2千リットルタンクの仕込みは創業以来6千回を超える。ジャーマンスタイルを中心にした定番5種は全国的に知名度が高い。
 加田さんはブランドへの責任に重圧を感じている。一方で、自分を醸造の世界に導いたピルスナーウルケルをつくる夢もある。麦芽の糖化工程で通常とは異なる作業を伴うが、GKBにはそれを可能にする設備が整う。「幸運というしかない。手間は掛かるが、これをやらなければ人生を終えられない」

 ■ピルス
 ■御殿場コシヒカリラガー

 醸造所開業時にドイツ人ブラウマイスターがレシピを考案した「ピルス」(左)は、今もフラッグシップ的存在。モルトの豊かな香りとコク、口の奥の方で感じるホップの苦みがバランスよく組み合わさっている。
 「御殿場コシヒカリラガー」は、JA御殿場のブランド米「ごてんばこしひかり」を粉砕し、麦汁に入れて発酵させた。軽い口当たりとすっきりとしたのど越しが楽しめる。食味値が高い「特A米」を使っている。米に由来するほのかな甘みやうま味が感じられるため、和食との相性が良い。

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