日軽金、住民に売電否定? 「虚偽説明」と批判の声【サクラエビ異変 母なる富士川】
富士川水系に六つの水力発電所を保有し、波木井発電所(山梨県身延町)で得た電力を国の制度で電力会社への売電に回していることが明らかになっている日本軽金属蒲原製造所(静岡市清水区)が、このほど富士宮市で開いた住民説明会で出た質問に「得た電力は、工場で使用している」と文書で回答し、住民から批判が出る事態となっている。25日、関係者への取材で分かった。
国のガイドラインは売電事業を行う際の「地域住民への配慮」を掲げ、これに抵触する可能性がある。売電に関する説明はなく、参加者は「なぜ虚偽とも取れる説明に終始したのか」と憤りを隠さない。
説明会は地元市議の仲介で7月下旬の夜、市内の公民館で約1時間行われた。事業への理解を得るのが目的で約40人が参加した。会の最後に、用意された用紙に参加者が質問を記入し、後日同社が文書で回答した。同社は回答で、「アルミ製品の製造のため水利使用許可を運用している」などとし、売電の「否定」と受け取られかねない内容だった。
同社や行政への取材によると、日軽金は売電のため国の固定価格買い取り制度(FIT)の利用を2015年に申請し、認定された。更新工事がおおむね完了した19年に適用されたという。
同社の回答内容に資源エネルギー庁は関心を寄せる。担当者は事業計画ガイドラインを挙げながら「住民説明会を開いて実態への理解を促すことが求められている。努力義務であり、指導を行う場合もある」と述べた。
同製造所は取材に対し、説明会自体が「導水管の構造上の安全性についての説明が趣旨だった」と釈明。FITの利用を認めた一方で、売電による利益に関しては「回答を差し控える」と明らかにしなかった。
■国へは「認める」申請書
日本軽金属は、波木井発電所(山梨県身延町)の水利権許可更新期限を前にした2020年2月に国土交通省に提出した許可申請書で、19年4月から国の固定価格買い取り制度の適用を受け「電力を電力会社に供給している」とし、売電を認めている。
同社が要求した売電を前提にした毎秒30トンの水利権更新は、同年3月末の期限から約1年半にわたり許可が下りない異例の事態となっている。
国交省からの意見聴取を受けた山梨県は同年11月、身延、南部、早川の地元3町に意見を照会。南部町と早川町が富士川への水返還を要求し、南部町は「売電そのものを目的とした発電は河川法に抵触しないのか」と問題視した。
県も両町の意見を支持して国に富士川水系の流量増を求める回答を行った。
(「サクラエビ異変」取材班)