池田屋麦酒(牧之原市)月居麻水さん 老舗継承の「最適解」 酒屋に小さな醸造所【しずおかクラフトビール新世代④】

 県内では希少な女性のビール醸造家、月居麻水(つきおりまみ)さん(46)。2019年秋に池田屋麦酒(牧之原市)を設立し、20年5月から醸造を始めた。

仕込んだ麦汁の発酵状況を確認する月居麻水さん=牧之原市の池田屋麦酒
仕込んだ麦汁の発酵状況を確認する月居麻水さん=牧之原市の池田屋麦酒
ペールエール(左、中央)とバイツェン(右)
ペールエール(左、中央)とバイツェン(右)
仕込んだ麦汁の発酵状況を確認する月居麻水さん=牧之原市の池田屋麦酒
ペールエール(左、中央)とバイツェン(右)

  実家の酒販店「池田屋酒店」の一角を区切った工場は約20平方メートル。容量300リットルの発酵タンク4基、煮沸釜など必要最小限の機器を置いたマイクロブルワリー(極小醸造所)だ。机や椅子も設置し、来店客が出来たてのビールが飲める仕組みも整えた。
  月居さんは約150年前から続く同店の7代目。「高齢の両親の後を継いで、この店をどう維持していくか。その最適解がビール造りだった」と明かす。
  少し前までは自分がビールを造るとは思っていなかった。老舗の長女だったが、静岡市内の大学を卒業。同市内で就職し、00年に結婚した。
  だが、7、8年前から、店の将来を考えるようになった。「両親は事業停止も検討していた」。明治時代初期から続く店の歴史に幕を下ろしたくはない。従来とは違う形の酒販店をつくれないか-。 そんな時に、伊豆市のビール醸造所ベアードブルーイングを見学し、衝撃を受けた。約20年前に同社のブライアン・ベアードさんが使った小さな醸造キットが残っていた。「自宅のベランダで造っていたと聞いた。自分にもできるかもしれないと勇気づけられた」
  19年秋、酒販店内に醸造会社を登記し、マイクロブルワリーの先達である羽田麦酒(東京都大田区)の門をたたいた。月曜日から金曜日までは本業を全うし、毎週末にビール造りを習った。醸造の免許を申請から約半年で手に入れ、5月上旬には米国から醸造機器が届いた。ビール工場を内包した酒販店というユニークな形式が整った。
  現在も、会社勤めの傍ら、毎週土曜日に仕込む。夫一誠さん(43)や両親も手伝う。“家内制手工業”のスタイルが確立しつつある。ブランド名「牧之原えーる」には「地域の人に親しんでほしい」という願いを込めた。「ペールエール、IPA、バイツェン。どのスタイルも、飲み飽きしない味を目指す」
  冬場に向けて、麦芽の個性を強めたアンバーエールのレシピを開発中。「ご飯やおかずがおいしく食べられるビール。そこはぶれずにやっていきたい」。力強く語った。
 (文化生活部・橋爪充)

■バイツェンとペールエール
 バナナやリンゴのような香りが漂うバイツェンは、ドイツ産のザーツホップの個性を存分に引き出した。苦みを抑えた柔らかな味わいが特徴だ。
  カスケードなど3種類の米国産ホップを使ったペールエールは、一般的なペールエールに比べて香りと苦みは控えめ。泡立ちも抑えた。気温が高い夏場は糖化の工程で麦汁の温度を低めにするなどして、少し軽めに仕上げている。持ち帰りにはビールの容器としては珍しいペットボトルを採用。「光を通してしまうが、早いうちに飲んでほしいというメッセージを込めた」と月居さん。ボトル詰め直後に売り切れるものもある。

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