資生堂アートハウス「蒔絵飾箱ミンク」 1979年、田口善國作 金銀に柔らかな黒漆【美と快と―収蔵品物語⑤】

 文様が艶めく蒔絵[まきえ]を施した大小の器。絢爛[けんらん]豪華な大名道具の風格だが、飾って楽しむだけでなく、食事やお茶の時間など生活の場でも使ってみたい。人間国宝の田口善國(1923~98年)作の「蒔絵[まきえ]飾箱[かざりばこ]ミンク」は、つい触りたくなるようなミンクの愛らしい姿に心が温まる。収蔵する資生堂アートハウス(掛川市)を訪ねた。

「蒔絵飾箱ミンク」 1979年 田口善國作
「蒔絵飾箱ミンク」 1979年 田口善國作
「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
資生堂アートハウス
資生堂アートハウス
「蒔絵飾箱ミンク」 1979年 田口善國作
「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
資生堂アートハウス

 かつて資生堂が東京・銀座で開催していた「現代工藝[こうげい]展」の出品作。若手作家を支援する開催趣旨から、主催者側が買い取り、収蔵品に加わった。高価な漆を塗った器の表面に模様を描き、金粉や銀粉を蒔き付ける手法は、作家への経済的援助が特に必要だったと想像できる。
 漆工芸は古くから、さまざまな吉祥の世界が題材にされてきた。鶴や梅など縁起のいい動植物はよくなじむが、なぜミンクなのか。「苦労をかけた奥さまにぜいたくをさせてあげられず、せめてミンクの蒔絵を、というエピソードがある」。学芸員の福島昌子さんが、高級な毛皮とは違うミンクの魅力を説明する。
 作家の似顔絵ともいえる丸い大きな目と愛きょうのある表情。黒漆の胴体は柔らかくしなり、箱の側面にぐるりとはわせた長い尾を顔の前に持ち上げる。
 ミンクが小さな足を踏ん張る地面は波のようなグラデーションを帯び、立体感を帯びて光り輝く。金銀が蒔かれた草むらは、黒漆の主役を浮かび上がらせる。「ユーモラスに見える作品だが、発想の逆転は周囲を驚かせた。伝統ばかりではない作家の気概も伝えている」。類似作品がないことも関心が注がれる理由の一つだ。
 生物をモチーフにした田口の作品はこのほか、ミミズクやフナ、トンボなどの愛らしい描かれ方が印象的。深い観察を伴う自然界との交歓を感じ取ることができる。
 (文化生活部・宮城徹)

 ■色彩を変える螺鈿 「切貝蒔絵薊文茶入」 2014年 小椋範彦作
 田口善國が東京芸術大で指導し、その後も制作助手としてそばに置いたのが小椋範彦だ。「切貝蒔絵[きりがいまきえ]薊文茶入[あざみもんちゃいれ]」は、資生堂アートハウス主催の「工藝を我[われ]らに」の出品作。「貝の真珠層を細かく切り、向きをそろえて貼り直した螺鈿[らでん]のきらめきが目を引く。
 ネオンサインを思わせる田口の技法を継承し、アザミの花は視点によって色彩を変える。上からのぞくと鮮やかな紫色、横に角度をつけると緑が増す。一方、葉には点描のように影をつけ、一枚一枚の重なりを丁寧に見せている。時代の先端に立つ作家たちは、常に技術の歩みを進めている。

 <メモ>資生堂アートハウス
 1978年開館。資生堂が主催する椿会美術展や現代工藝展に出品された絵画や彫刻、工芸品など約1600点がそろう。代表作家は奥村土牛(日本画)、岡鹿之助(洋画)、舟越保武(彫刻)、加守田章二(陶芸)ら。建物は高宮真介、谷口吉生が設計し、79年度の日本建築学会賞を受賞。美しい生活を提案する展覧会「第二次工藝を我らに第二回展」を4月23日まで開催中。

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