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テーマ : 三島市

気温上昇止めるため できることは? ごみ減量、身近な第一歩【SDGs 1.5度の約束】

 日々の暮らしの中で生み出される「ごみ」。県内で家庭や店舗から排出される一般廃棄物は年間112万トン(2021年度)に上る。ごみは焼却によって温室効果ガスを排出するだけでなく、収集運搬や廃棄される過剰な物の生産にかかる環境負荷も大きい。ごみの減量は誰もができる地球温暖化対策の一歩だ。行政や事業所、市民の先駆的な事例から、減量に向けた方策を探った。
住民にごみ出しのマナーや分別を助言するクリーン推進員の松本則夫さん(左)=12日、掛川市亀の甲
 排出量、日本一少ない掛川 市民が活躍、広がる分別
 12日朝、JR掛川駅に近い掛川市亀の甲の住宅街。ごみ集積所に同市の自治会が選出したクリーン推進員、松本則夫さん(72)の姿があった。週3回ここに立って住民が持ってきたごみ袋を整頓し、分別に誤りがあればその場で助言する。「アパートが多く、市外から引っ越してくる人も多い地域。推進員がいることで正しい分別方法を広めることができる」とやりがいを語る。
1人1日当たりのごみ排出量が少ない県内市町
 市民が支えるこの取り組みが、ごみ減量に重要な役割を果たしている。環境省による2021年度の一般廃棄物処理事業実態調査によると、掛川市の住民1人1日当たりの排出量は623グラムで、全国の人口10万人以上50万人未満の自治体で最少だった。1位は2年連続、3位以上は12年連続だ。01年度に始めたボランティアによる推進員制度には現在、679人が登録。市全域の集積所をきめ細かくカバーし、ごみの分別徹底と減量につなげている。
静岡県内の1人1日当たりのごみ排出量の推移
 市は30年度までに市内の温室効果ガス排出量を13年度比で46%減らす目標を掲げるが、18年度時点で削減できたのは10.3%にとどまる。現在、使用済み紙おむつやプラスチック製品の資源化も検討。市カーボンニュートラル推進室の陸田真宏室長(50)は「ごみ減量は二酸化炭素(CO₂)削減の大きな柱」とし、市民や事業者と連携を図る意義を強調する。
 県は22年に策定した第4次県循環型社会形成計画で、1人1日当たりの一般廃棄物排出量の目標を、26年度の県平均で848グラムとしている。21年度は843グラムだったが、新型コロナウイルス禍の収束で増加に転じる恐れもある。観光関連の飲食店や別荘が多い伊豆半島の市町は千グラムを超えるなど、地域格差も課題だ。
 県はプラスチックごみや食品ロスの削減などを重要課題と位置づける。リユース、リデュース、リサイクルなど6R県民運動の啓発、県独自のスマホアプリ「クルポ」を使ったレジ袋削減、リサイクルボックスの活用、食事の食べきりの推進などに取り組む。
 県のまとめでは、20年度に県内で排出された温室効果ガスは計2680万トンに上る。30年度に1792万トンに減らす目標がある中、家庭でのごみ排出量削減は県民意識の向上に向けた入り口でもある。県廃棄物リサイクル課の片山広文課長(56)は「ごみの削減に取り組むことは、温室効果ガス排出の削減にもつながっていることを知っていただき、県民の皆さまにできることから行動してもらえるよう啓発していきたい」と言葉に力を込める。

 廃棄食品を減らす ロス恐れの商品 アプリで〝出品〟 
 まだ食べられる状態の食べ物を捨てる「食品(フード)ロス」は、国内で年間523万トン(2021年度)も発生していると推計され、ごみ減量を進める上で課題となっている。近年はスマートフォンのアプリを活用して店舗と顧客をつなぎ、食品廃棄を防ぐサービスが誕生し、県内でも利用が広がり始めた。
「TABETE」への商品登録を準備する店員=静岡市葵区のブールアンジュ新静岡セノバ店
 静岡市葵区の大型商業施設にあるパン店「ブールアンジュ新静岡セノバ店」は22年3月から、コークッキング(埼玉県東松山市)が運営する食品ロス削減アプリ「TABETE(タベテ)」を利用している。店舗側が廃棄の恐れがある商品をアプリ上に登録。閲覧した会員が購入手続きをして店舗で商品を受け取る。消費者が気軽に食品ロス削減に貢献できる仕組みだ。
 ブールアンジュは製造過程で形が少し崩れ、店頭に並ばない商品を数個詰め合わせにして出品。味は通常の商品と変わらず、価格は半額程度とあって毎回ほぼ完売しているという。店員の小池早紀さん(26)は「商品のロス削減に役立つだけでなく、お客さまにいろいろな種類のパンを知ってもらうきっかけにもなっている」と手応えを語る。
 コークッキングによると、タベテの登録は総菜店やパン店、飲食店など首都圏を中心に約2500店。利用登録している会員は約77万人に上る。県内の登録店舗は37店(13日時点)で19年のサービス開始以降、累計で約2300食を廃棄から救ったという。店舗側には廃棄費用の節減や環境保護への貢献に加え、新規顧客の開拓といったメリットもある。
 県内ではまだ普及の途上だが、大手の飲食、ホテルチェーンによるサービス導入の動きも出ている。コークッキングの担当者は「今後はスーパーマーケットやコンビニエンスストアにも参加を広げ、静岡など全国でサービスの普及を進めたい」と語る。

 雑紙も資源、可燃ごみ半分に 三島市ごみ減量アドバイザー/坂根忠俊さんに聞く   
 家庭から排出されるごみの量を減らすために、私たちがきょうからできることは何か。三島市で2017年からごみ減量アドバイザーとして活動する坂根忠俊さん(82)に、家庭での実践について聞いた。
家庭ごみの減量に向けた実践について語る坂根忠俊さん
 三島市では新聞や雑誌、段ボール、紙パック以外の紙も「ミックス古紙」(雑紙=ざつがみ=)として分別し、資源回収している。ただ、市の22年度の調査によれば、市内のごみ集積所に出された燃えるごみの3割は紙類で、そのうち4分の1はミックス古紙という。ミックス古紙の分別はごみ減量を進める上で鍵になる。
 自宅ではメインのごみ箱の隣に、ミックス古紙を入れるための箱を置いている。レシートや紙箱などはその箱に入れるようにしたところ、燃えるごみの量は半分以下に減った。自分自身、アドバイザーになるまでは、市がミックス古紙を資源回収していると知らなかった。分別自体は簡単なため、まずはもっと知ってもらうことが重要。ごみ集積所で市民にチラシを配り、声かけをしている。
 市は、生ごみを入れて堆肥にする容器「コンポスト」を無償貸与しているため、自宅近くの畑に置いて活用している。毎朝、畑仕事に行く時、前日の生ごみを持って出かけ、コンポストに入れるのが習慣になっている。
 誰にとっても身近なごみに目を向けることは、二酸化炭素の排出や海洋汚染など環境問題について考える入り口になる。難しく考えず、できることから始めてほしい。

 家具や食器…必要な人へつなぐ試み
 人口10万人以上の県内自治体で1人当たりのごみ排出量が4番目に多い三島市は、さまざまなごみ削減施策に取り組む。9月からは県内で初めて家具などの粗大ごみをフリーマーケットアプリ「メルカリ」で販売し始めた。11月には家庭で不要な食器や子ども服を集めた「もったいない食器市・子ども服市」を開く。

 メモ 気候変動対策を発信
 「1.5℃の約束」は国連広報センター(東京)と静岡新聞社など国内メディアが連携し、2022年6月に開始した気候変動への取り組みを訴えるキャンペーン。2年目の今年は12日時点で155社が参加している。21年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で確認された世界の平均気温の上昇を産業革命以前から1.5度に抑える目標を達成するため、気候変動の現状や対策に対する情報発信の強化を目指している。

 (生活報道部・草茅出、大滝麻衣、伊藤さくら)
 

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