先生の残業代 どうあるべき?⑤ キュレーター/読者の意見【賛否万論】
「先生の残業代 どうあるべき?」は今回が最終回です。月給の4%を上乗せ支給する代わりに残業代を支払わず、「定額働かせ放題」とやゆされている公立学校教員の給与制度や働き方の見直しについて考えてきました。働き方改革が叫ばれる中、教員の給与は勤務時間に比例すべきなのか、児童生徒へのきめ細かな指導が求められる割に教員数が少なく待遇が悪いのではないか、といった課題が浮き彫りになりました。地域社会との連携や保護者の理解も問題解決の鍵になりそうです。キュレーターと読者の意見を紹介します。
キュレーター 江口裕司さん(三島市)

私が小学3年生の頃の教室には牧歌的な雰囲気が漂っていた。担任の先生は教師机でタバコをくゆらせ、テストの丸付けをしながら順番にテスト用紙を返す。私のそれにはいつも大きなバツが遠慮ない。
その1966年の教師の月平均残業時間は8時間。その基準でみなし残業代4%を給与に上乗せすることで制定されたのが「給特法」。以降50年以上、超過分は自発的な残業とみなされてきた。現実はどうか。
名古屋大の内田良教授の研究グループが2021年に調査した月平均残業時間は小学校教員98時間、中学校で114時間と十数倍に膨れ上がっている。
「定額働かせ放題」とはやゆでは済まない確信犯と思える。膨れ上がる学習指導要領の残業代に充てる補正予算を組まなくて済むのは行政側には実に都合がいいからだ。教員の実労働時間に基づく残業手当は1兆円以上との試算がある。給特法は公立教員のサービス残業を合法化し、公教育におけるコスト意識を失わせ、教師を極限に追い込んでいる。
民間にも裁量労働制はあるが、給特法と根本的に違うのは時間管理の徹底だ。ところが、その制度を諦める企業も少なくない。ある企業の法務責任者はこう言う。「みなし時間の妥当性や健康管理など法的制約をクリアしても労働基準監督署からの改善指導が厳しく継続が難しい」。民間のような制約も監査もなく、賃金と労働時間を分断する給特法は明らかにおかしい。公立教員も同じ労働者。給特法を廃止し、労働基準法を適用すべきと考える。
学習指導要領で画一化された授業は外部委託し、民間と分業するのも一案だ。学校側は外注管理業務が増えるが、時間割に束縛されない1日となる。非認知能力の分野を学校の先生に特化すれば細かなフォローの余裕ができ生徒との信頼関係や教員のモチベーションも上がるだろう。民間との協働はコスト意識を上げ、職場に労基法と給特法が併存すれば給特法を見直す機会になる。
仕事量の適正化あってこその残業代の支払いだ。教育は国家百年の計。学校が魅力的な職場へ生まれ変わることを望む。
勤務時間外労働 人それぞれ
読者 フグタさん(静岡市)
残業代は一律にいかない。教員は他の一般的な職業よりも俳優のような仕事だろう。1時間の授業や会議のために担当する部分の準備の時間はどうしても児童生徒がいない勤務時間外になる人が大半。かといって時間をかければ良いものができるかは人それぞれ。
それよりも、仕事の負担をなくす。学力テストがもたらす弊害を考えると、これがなくなるだけで随分、教員は精神的に楽になる。全国と東京を比べて何になるのか。新聞やテレビで大きく話題にして、社会や県知事の不安をあおることで教員を追い詰めていないか。
特に英語。生活で必要のない話す力を調べる必要はあるのか。オランダでは英語の映画は英語で放送されるとか。かたや、日本では「スーパーマリオ」の映画は全て日本語吹き替え。以前「ハリー・ポッター」の英語版を見ようと思ったら午後9時からの1本のみ。こんな生活で英語ができるようになる訳がない。言語は話して読んで書いてなんぼ。大切な税金を誰のためにもならないテストに使われることにも是非目を向けてほしい。最近文科省が頑張ったのは「免許更新」を止めたこと。次はテストを止める勇気を持ってほしい。今朝(1日)の新聞1面を見てどうしてもひとこと言いたくなってしまった。
過酷な勤務実態 知って
読者 匿名
教員になって数年のおいの現状を書かせていただきます。県西部の中学校に勤める若手職員です。
平日はアパートを午前6時50分に出ます。生徒が通学する時間より前に出勤のため、午前7時半には学校に入ります。昨年の月残業時間は、約130時間だったそうですが、今年4月からは月190時間を超えているそうです。これは校内残業、部活などで、家での持ち帰り仕事は別です。
教師数は足らず、副担任はなし。講師も定年再雇用の方もほぼ全員(学級崩壊などを起こした教員は外れたりする)が担任です。
朝から授業が続き、昼食は生徒と教室で食べ、夕方から部活指導、その後クレーム対応、3日間休んだ生徒には家庭訪問、全てが終わり、明日の授業準備、学校を出るのは午後10時半から11時半。午前1時を過ぎる時もあり、車を運転しながら睡魔に襲われるそうです。午後11時過ぎに夕食、入浴。体育祭など行事の日は朝4時にアパートを出ることも。土日祝日は部活指導。部活が変わるたびに審判講習を受け、試合の審判、今まで経験のないスポーツの審判のため、ミスをすると父母から怒られるそうです。
試合当番に当たる日は土日祝日なのに朝6時から夜7時まで部活。強い部活に当たるとずっと続きます。当たり前の休みもなく、睡眠時間すら確保できない教員。遠方の友人の結婚式はいつも欠席、親類の不幸があっても忌引は日数分を取れません。なぜなら、授業を休む時は他の教科の教員と授業交換をし、後から返さないとならないため、ますますその後が大変になるからです。
両親はいつ倒れてもおかしくない息子を心配し、教員を辞めるよう懇願していますが、聞く耳は持ちません。コロナや授業のデジタル化など特に若手に負担が増え、会社なら払われる残業代も給与の3%、1万円くらい。4%に上がっても1万5000円。会社なら月190時間残業させられて残業が付かなければ労働基準監督署が入るのに、なぜ教員の場合、労基署が入らないのかも不思議に思います。
名門の大学の教育学部が定員割れをしたり、教育学部の学生が教員にならなくなっていたりするのも当然だと思います。月に1回か2回しか休みがなく、早朝から夜中まで働いて、保護者からはクレームが多く、結婚も子育てもできないからです。教育学部の生徒は教員になった先輩から、教員のブラック勤務を聞いていて、教員試験に受かっても辞退したという話もよく耳にします。おいの同期も体を壊したり、精神を病んだりして数人辞めたようです。同じ学校で一人でも病休や辞めたりすれば、ますます残った教員の負担は増えていきます。
もっとしっかり残業時間を調べたり、教員の現状を表に出して大きな改革をしたりしない限り、教員になる志のある若者が遠ざかっていくのは必然だと思います。
教員だけの話ではない
読者 ひまじんさん(磐田市)67歳
教員の経験者ではないので、教員の仕事がどれほどのものか分からない。働いた分だけ報酬をもらえるというのは理想だが、雇用者がそれを完璧に把握するのは現実的に不可能だろう。だから、概算で超過勤務手当を支給するのは合理的ではある。
わが家の次男は塾の講師だが、拘束時間は長く休日でも電話があれば出かけて行く。塾生の親と面談とかはどうしても親の都合に合わせることになるからだ。そういうことは、おそらく無給でやっている。
何を言いたいかというと、サービス残業のようなことはいい悪いは別にして世間では普通のことなのである。
公立校の教員であれば失業の心配もなく、給与水準も一般企業より高いのではなかろうか。そう何でもかんでもかなう仕事などなかなかない。こういうことを社会問題として取り上げてもらえるだけでも恵まれている。ただ、精神的疾患による休職者が増加傾向であることだけは心配だが、その原因は多忙だけではないだろう。
次回のテーマ
「生成AIを学校現場で使うのはあり?」
次回のテーマは「生成AIを学校現場で使うのはあり?」です。情報技術が飛躍的に進化し、チャットGPTをはじめとする生成AIが各分野で使われ始めました。文章や絵などを簡単に作成できる生成AIは教育分野への応用が期待される一方、教育への悪影響を懸念する声もあります。文部科学省は7月、生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインを各教育委員会に通知しました。教育分野や学校現場は生成AIを積極的に使っていった方がいいでしょうか。また、その場合、どのように活用したらいいのかを考えます。
キュレーター
「しずしんニュースキュレーター」は、新聞記事や時事問題の“ご意見番”として、静岡新聞の記者が推薦した地域のインフルエンサーです。毎回それぞれの立場や背景を生かしたユニークな視点から多様な意見を寄せてもらいます。