社説(8月13日)静岡県東部の移住施策 広域で連携、深化図れ
沼津、三島両市が移住者の増加に向けて連携し、初の取り組みとしてバスツアーを行った。企業や商業施設の誘致、子育て支援や福祉などの各施策で意識し合っている両市は、移住促進策でも競り合ってきた。タッグを組むのは異例で、静岡県東部のほかの市町が関心を寄せている。
山と海に囲まれ、人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン‼」の舞台にもなった沼津市と、新幹線駅を擁して東京と行き来する利便性の高い三島市。バスツアーは互いの“売り”をそれぞれにPRできる上、隣接しているため移住希望者が1日で比較しやすいことから、共催が実現した。
取り組みは相乗効果を狙い、定期的に行っていく。人口減に歯止めをかけようと他市町も移住促進策に力を入れているが、単独では広がりがない。一方で各市町にはそれぞれ特徴がある。両市は東部の他市町にも参加を求め、広域で施策を深化させるべきだ。両市が今回の連携の成果を示し、東部で共有することから始めたい。
県外から県東部への移住者は堅調に推移している。県内市町別の2022年度の移住者数(行政の支援制度を利用して県外から移住した人)は、沼津と富士、三島の各市が3~5位を占めた。特に沼津は253人で前年度の45人から大幅増となり、富士は241人と初めて200人台に達した。三島は130人で前年度から減らしたが、この5年間では2番目の多さで底堅い。相談体制の充実や発信の強化など新たな支援策も数字を押し上げたとされる。伊東、熱海、下田、伊豆、伊豆の国の各市や長泉、清水の両町も前年度から増え、ほぼ東部全域が増加傾向にある。
東部は若者らの流出が深刻な市町が多いだけに、県外からの移住増の流れを維持し、さらに加速させなくてはならない。そのために施策のブラッシュアップが欠かせない。
まずは移住者の生の声を聞きたい。地域の良さばかりではなく、足りない点や改善すべき点も公にすることが重要だ。その声を支援やまちづくり施策に反映させることが新たな移住につながるはずだ。
移住前の想定と移住後の現実のギャップから、すぐにその土地を離れたという声も聞く。移住させて終わりではなく、息の長いフォローが不可欠だ。市町に加え、住民や地域にも受け入れる素地を構築する努力が求められる。
東部は首都圏に近く、中西部より優位性がある。その東部をけん引すべき沼津、三島両市と富士市は、移住者の獲得を競うのではなく、互いに連携して通院や買い物など移住者による交流人口増と東部全体の活性化に寄与しようとする姿勢が肝要だ。