「気配」追求、溶け込んだ形 ペインター・ながいいちほさん(伊豆市)【表現者たち】
油彩を中心に創作するペインターながいいちほさん(49)=伊豆市=の人物像には、羽や角を持つ人、たばこをくゆらす愛煙家が登場する。「目に見えない気配、たたずまいを追求してきた。動物の体の一部、たばことその煙から、その手がかりを探ることが多い」。喜怒哀楽といった感情とは異なる「日常から引っ張り出した非日常」に意識を向けるという。
フェルケール博物館(静岡市清水区)で展示中の作品「うわのそら」は、サーカスの演技を終えた天使役の女性が宙に横たわり、たばこを吸う。「彼女は気が抜けた真空状態」。背景の澄んだ白色が時間、空間の隙間へ誘う。
三島市出身。動物との関わりに影響を受けてきた。子どもの頃から犬や猫を飼い、女子美術大卒業後は牧場で働きながら、高校で非常勤講師として美術を教えている。
中でも牛は特別な存在。「小学生の頃の写生、高校時の酪農実習など、要所要所で牛が現れては余韻を残していった」。大きな体が発する熱の塊には「柔らかさや安らぎではなく、畏怖を感じる」。におい、そしゃく音なども創作の種。「smoke」シリーズの一つ、元看板娘というふくよかなマダムは、牛らしきしま模様の角が存在感を示す。
伊豆半島での暮らしとも密接につながる。「伊豆半島自体がダイダラボッチのような大きな生き物であり、私はその背中に住むノミみたい」と例える。
具象作品が並ぶ個展会場に、白色だけを全面に配した「地上のよる」がある。ペインティングナイフの凹凸によってさまざまな色がわずかに透け、想像力の広がりを支える。
「限りなく背景に溶け込み、色、形も消えてしまう作品が理想型。まだ形にとらわれてしまっているけど」。表情豊かな自然に耳を澄まし、生き物、土地全ての気配を表してみたいと模索が続く。
「ながいいちほとおくをみる」展は、7月30日まで。