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社説(5月22日)広島サミット閉幕 核廃絶へ新たな一歩に

 戦争被爆地・広島で開催された先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、多岐にわたる議論を反映した声明をまとめ、きのう閉幕した。
 最終日には「平和で安定した世界に向けて」と題した拡大会合が開かれ、G7各国や招待8カ国首脳のほか、サミットにサプライズ参加したウクライナのゼレンスキー大統領も加わった。
 岸田文雄首相は締めくくりの議長会見で「G7とウクライナの揺るぎない連帯を示せた」「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を確認し、守り抜く決意を示せた」と意義を強調した。
 サミットで最も象徴的だったのは、核保有国も含むG7首脳が爆心地近くの平和記念公園を訪れ、原爆慰霊塔に並んで献花し、黙とうをささげた初日の厳粛な光景だ。首脳らは原爆資料館も見学し、被爆者の声も聞いた。

 核兵器が使用されると、どれほどの惨禍が引き起こされるのか。核兵器の使用権限などを持っている世界の指導者に核兵器の非人道性、恐ろしさや危うさを実感してもらう意義は非常に大きい。
 ただし、核兵器を威嚇に使うロシア、配備を積極的に進める中国や北朝鮮の指導者はこの場にはいない。理想とする「核兵器のない世界」と現下の「厳しい安全保障環境」のギャップは依然大きく、むしろ実際には広がりつつあると言わざるを得ない。
 それでも核兵器の廃絶を諦めてはいけない。わずかでも前に進めなくてはならない。G7首脳がそろって広島を訪れたことは前向きに受け止めたい。後世に広島から核廃絶への新たな一歩が始まったと評価される取り組みにしていく必要があろう。
 首脳声明は、「核兵器のない世界」という究極の目標に向けて、現実的で実践的、責任あるアプローチを取ると打ち出した。核軍縮では「全ての人にとっての安全は損なわれない形での核兵器のない世界実現」への関与を表明。核拡散防止条約(NPT)が核軍縮・不拡散を追求する基礎だと強調した。
 声明とは別に「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」も表明された。核兵器不使用の継続、削減や不拡散、透明性確保、指導者や若者による広島・長崎の訪問促進と、首相が昨年8月に発表した行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」が下敷きになっている。G7で取り組むことになったのは前進と言えよう。

 首脳声明は、核兵器が抑止力となる現状を肯定した上で削減と不拡散を求めているため、核抑止力を正当化しているという批判もある。現実的な進め方を探るとなるとやむを得ないかもしれない。
 問題なのは、実現へ具体的な道筋や工程表が描けないことだ。核軍縮に後ろ向きの中国やロシアをはじめ、NPTの枠外にある国々をどのように巻き込むかを考えなくてはならない。互いに非難し合っても前には進まない。まず対話を始めることが重要だ。
 広島サミットでは、ロシアへの制裁強化、ウクライナの支援、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国との協力関係構築―などに加え、半導体などの供給網維持といった経済安全保障、対話型人工知能(AI)利用の国際ルール形成なども議論された。
 ゼレンスキー氏は積極的に各首脳と個別会談を実施。迫っているとみられる反転攻勢を前に、さらなる支援と理解を求めたとみられる。侵攻後初めてインド首相とも会談した。G7側から見れば、侵略戦争を起こしたロシアは悪だが、新興・途上国の中にはロシア寄りの国も少なくない。
 首脳声明はロシアの侵攻が続く限りウクライナを支援と明記。中国に対してもウクライナからの即時かつ無条件の軍撤退をロシアに迫るように求めた。「支援疲れ」などが指摘される中、G7は結束を確認できた。国際秩序再構築に向けてG7は改めて役割と責任をかみしめてほしい。

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