あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

社説(5月11日)海のプラごみ問題 環境教育の拡充が必要

 先進7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合が4月、議長国の日本で開かれ、プラスチックごみの新たな海洋汚染を2040年にゼロにする目標を定めた。G7の枠組みとして、従来の目標を10年前倒しすることになった。
 ポリ袋や食品容器、家電部品、漁具などが適切に処分されずに流出し、国境を越えて漂流する海のプラごみ問題は年々深刻さを増す。年間1千万トンが流出しているとの推計もある。生活に不可欠な素材とはいえ、大量消費と大量廃棄の経済活動を速やかに見直さなければならない。
 欧州では使い捨て製品の販売禁止や飲料ボトルの再生プラ比率引き上げ、日本ではリサイクルやレジ袋削減の取り組みが進む。国や企業の対策に加え、一人一人が身近な課題と受け止め、行動に移したい。将来を見据えて、学校や地域で環境意識を醸成する教育を拡充させる必要がある。
 浜松市は数年前から、市内の劇団「たんぽぽ」による啓発劇を小学校で始めた。手紙を入れたペットボトルを流そうとした子が、海の生き物や海中のごみの悲しげな声を耳にする物語で、歌や踊りを交えてごみ減量の大切さやポイ捨ての影響を訴えている。
 日常生活から出たプラごみが水路や川を経て海へ流出する現状を踏まえ、劇団は市街地や山間部の学校も訪れる。ただ、毎年8校の上演に限られている。機会の拡大とともに、親子が語り合いながら観劇できる工夫も求められる。
 静岡県内では駿河湾や遠州灘、浜名湖などでボランティアの沿岸清掃が活発だ。SNSアプリを使って活動ランキングや清掃イベント情報を提供し、楽しみながら参加する仕掛けも見られるようになった。漂着ごみ回収の実体験と環境学習を組み合わせて、教育の効果を高められないか。分かりやすく説明できる人材の確保、育成が重要になる。
 プラごみは魚や海鳥など多くの生物を傷つけている。ウミガメがポリ袋を飲み込んだ例が県内でもあった。22年にはウミガメの排せつ物から不織布マスクが見つかった。プラごみが漂流中に波や紫外線で劣化して5ミリ以下の微細なマイクロプラスチックとなり、魚食などを通じて有害物質が人体に入った場合の健康被害が懸念されている。世界の観光や漁業への影響などの経済損失が年間1兆数千億円に上るとの報告もある。
 国際シンクタンクと日本財団の研究チームは2月、日米欧や中国が強力な対策を講じなければ、50年にプラスチックの消費量が19年の1・7倍に増え、海洋汚染がさらに深刻化すると警鐘を鳴らした。環境教育の取り組みをアジア・太平洋地域などにも広げ、汚染の拡大をくい止めたい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ