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旧蒲原町 生活の足確保に苦悩 住民発案バス、補助頓挫【伝えたい 政令市の現場から① 静岡市㊤】 

 2006年3月に静岡市に当初「飛び地」として編入合併した旧蒲原町(現在の清水区)。合併前約1万3千人だった人口は、1万人割れが目前。少子高齢化が著しい。

共立蒲原総合病院に向かう路線バス。静岡市が運行委託している。2021年度は1便平均約3人の利用にとどまった=3月下旬、同市清水区のJR蒲原駅前
共立蒲原総合病院に向かう路線バス。静岡市が運行委託している。2021年度は1便平均約3人の利用にとどまった=3月下旬、同市清水区のJR蒲原駅前

 「運転免許だけはこの先、絶対に手放せないよ」。3月下旬、共立蒲原総合病院をマイカーで訪れた同区蒲原神沢の農業男性(74)は話す。周辺のJR駅と病院を結んでいた民間バス路線は19年9月に撤退。市は地元バス会社にマイクロバスによる運行委託をしたが、平日は1日6往復半と便数が少なく、21年度の利用は1便平均約3人にとどまる。
 「『車なしでも生活できる地域』を売り出すことで地域振興になれば」。民間バス撤退前後から地元自治会が中心となり、住民主体で運営する「地域循環バス」の機運が高まった。16年に発足した「由比・蒲原地域内公共交通システム早期実現の会」(会長・服部和博蒲原地区連合自治会長)は、「交通空白地」であれば事業者でなくても住民の送迎を有料で担うことができる道路運送法上の「自家用有償旅客運送」を活用して、山間地や海岸沿いも回る循環バス「KART」を走らせ、1日20周程度する計画を練り上げた。住民は数万円の年間フリーパスを購入し、売り上げを運行経費に充てる。
 18年に行った住民アンケートでは77%が賛成し、フリーパス購入希望は1101枚。運転免許証返納希望者は1195人に上った。同会の試算によると年間経費は約5650万円で、フリーパスの売上金で賄えない分は市の補助を見込む。
 市も当初は積極的な姿勢を示し、19年度から民間コンサル会社に事業スキームの整理を委託するなど取り組みを支援してきた。しかしここに来て、「行政負担の検証が必要」(市交通政策課)と動きが止まった。
 撤退した民間バス会社の試算では、循環バスの年間コストは倍近くという。自家用有償旅客運送の導入も、事業者をメンバーに含む地域公共交通会議の合意が必要で、市の委託で事業者がバス営業している現状では「協議が調わない可能性が高い」(同課)と後ろ向きだ。
 「はしごを外された」。住民からは怒りの声が上がる。服部会長は住民向けの便りで1月、「行政の対応がやや遅れており申し訳ない」と陳謝した。
 会の事務局を務める鈴木博喜さん(59)は「市は大型ハコモノ事業を相次いで打ち上げていてそのしわ寄せが来た。蒲原町のままであれば負担できた金額。合併しなければよかった」と嘆く。
 国土交通省旅客課は取材に「交通空白に厳密な定義はない」と説明。「全ては静岡市が地域をどうしたいか。本気なら地域公共交通会議で必要性を訴えることは可能」とする。
 (清水支局・坂本昌信)
   ◇ 
 選挙戦に入った静岡、浜松の両政令市長選。舌戦の中、光が当たらなかったり、深入りが避けられたりしている重要課題もある。現場を巡ると、切実な訴えが有権者から聞こえる。

 

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