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テーマ : 編集部セレクト

大自在(3月10日)福島県双葉町

 東京電力の原発事故で放射能汚染に見舞われる前、約7千人が暮らしていた福島県双葉町。全町避難指示は昨年8月に一部解除されたが現在の人口は約60人。うち20人は役場の職員という。
 「居住人口ゼロ」からの復興が緒に就いたばかりの被災地を訪ねた。ガレージに車が置かれた新築住宅の玄関は雑草に覆われ、外壁にはコケ。にぎわっていた商店も消防団の詰め所も廃虚と化したまま。時間は止まっていた。
 幹線道路を行き交うのは、廃炉や除染作業の従事者と防犯パトロールの車。帰還した町民の多くは期限のある公費負担で自宅の取り壊しを急ぐ。故に、にわかに人口は増えない。
 まちは、老若男女が生活し、喜怒哀楽の日常があってこそ。立派な駅舎が再建され、新道建設のつち音が響いても、暮らしの立て直しを見通すのは難しい。復興再生の拠点区域となったJR常磐線の双葉駅周辺を軸に官民協働のふるさと再生を目指す一般社団法人ふたばプロジェクトが発足した。
 若者らが産業や雇用創出に汗を流し、被災の語り部も担う。地道な取り組みを応援したい。プロジェクトの地元スタッフは、事故後に話題となった「原子力明るい未来のエネルギー」のアーチ看板を、「私も疑問を持たなかった」と打ち明けた。看板は撤去され保存展示が決まった。
 福島県は全10基の原発など多数の発電所を擁する国内最大の発電県だった。東北の地から、首都圏1都3県の消費電力の3分の1を供給してきた。国の経済発展を支えてきた福島の苦難から全国民が目をそらしてはならない。

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