大自在(3月5日)バットを振る
一致団結するのは「全員野球」。ありきたりではなく、意外性のある企画は「変化球」。社内の優秀な人材は「エースで四番」…。普段、仕事で使っている野球用語の何と多いことか。
それだけ身近な存在ということだろう。それでも、若者には通じなくなりつつあるようだ。「一丁目一番地」「よしなに」などとともに、「おっさんビジネス用語」としてSNSで話題になっているらしい。
野球用語を比喩的に使うといえば、気になっていた広告がある。「とにかくバッターボックスに立ってみる。バットを振ったら当たるかもしれないじゃないですか」。世界最高齢のプログラマー、87歳の若宮正子さんである。
若宮さんは高校卒業後、銀行に勤務。定年を機にパソコンを始め、81歳で初めて作ったiPhone(アイフォーン)用のゲームアプリが世界で認められた。今もITエバンジェリスト(伝道者)としてデジタル庁デジタル社会構想会議構成員などパワフルに活動を続ける。
小学生の頃、太平洋戦争のため疎開。そこでは勉強もままならない状況だったという。「学びに飢えていた」ことが好奇心を持ち続ける原点なのだろう。「よたよたしながらでも打席に立てば、たまたま打った打球が追い風に乗ることもある。(アプリは)予想外の場外ホームランでした」と昨年、雑誌で対談した社会学者の古市憲寿さんに語っていた。
新しいことを始めるのに勇気は必要ない。年齢で諦める必要もない。若宮さんの生き方に、人口減少の危機を乗り越えるヒントを垣間見た気がした。