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社説(2月25日)ウクライナ侵攻1年 世界経済の分断 連帯の再生 日本に役割

 スイス東部のダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会。新型コロナウイルス禍による縮小開催から一転、世界の政財界指導者2700人が一堂に会した。活気が戻った会場で話し合われたのは、皮肉にも「世界の分断」だった。
 ロシアのウクライナ侵略に対抗し先進7カ国(G7)を中心とした自由主義陣営が踏み切った経済制裁は、前例のない規模だった故に副作用も激しい。ロシアは原油と天然ガスの主要産出国であり、資源価格の高騰でインフレに見舞われた国々では自国中心主義が強まった。
 一方、新興国、途上国の多くが経済制裁に距離を置く。「中立国」の存在は新たなブロック化や供給網分断の要因になり、経済の切り離しを意味する「デカップリング」の危機感が強まる。
 岸田文雄首相が掲げる、価値観を共有する自由主義陣営との連帯と共闘は、むしろ困難さが極まってきた。

 冷戦終結後、各国は複雑に絡み合う課題を互いに調整し、相互に依存してきた。食料やエネルギー資源のみならず、半導体や工作機械、レアメタル(希少金属)など経済成長とデジタル革命を左右する経済資源まで、サプライチェーン(供給網)は国境と政治体制をまたいでその機能を進展させてきた。
 軍事費増強の予算は経済発展に回され、各国は「平和の配当」を手にした。それがウクライナ危機で一変した。ダボス会議が「分断された世界」を論じたゆえんだ。
 潤沢な資源のない日本はロシアへの経済制裁で痛手を被った。ただ、自由主義陣営の全ての国がエネルギー問題で苦境に耐えていると考えるのは誤りだ。
 ロシアへの経済制裁は、代表的な非資源国の日本やドイツの富を国外流出させた一方、資源産出国にとって輸出入の環境を好転させる要因になった。
 経済産業省の2022年版通商白書によると、輸出入物価の指標である「交易条件」は日独が20ポイント前後悪化したのに対し、米国やカナダ、オーストラリア、ノルウェーなどの資源国は同程度好転した。コロナ禍からの経済回復段階で兆候があり、ウクライナ危機で加速した。一方、ロシアやウクライナが主要輸出国である小麦やトウモロコシなど食料関連品目では、中東やアフリカ諸国など発展途上国が供給不全の影響を被った。
 日本の食料とエネルギーの自給率は先進諸国中で最低水準だ。経済の分断が及ぼす影響はまだら模様だが、影響を多面的に、かつ深刻に被っているのは日本だ。

 中国とインドの動向から目が離せない。
 世界3位の産出量を誇るロシア産原油を、中国やインドは買いたたき大量輸入する。批判があるが、中印がロシア産原油を買わず中東などに販路を求めた途端、石油供給のバランスは崩れる。ロシアの戦費を中印が支える不都合な事実は、世界経済の維持には好都合な面もある。
 中国はしたたかだ。地方政府要人がいま、続々と来日し、企業誘致セミナーを開催している。ゼロコロナ撤廃を機に対外経済活動が一気に活発化してきた。
 WEFのシュワブ会長はダボスで「私たちは、持続可能な世界を構築する力がある」と訴えた。だが、世界経済の分断は超大国が迫る踏み絵の前で、日本を含めた国々が右往左往する事態を招いているのが実態だ。
 嘆いているだけでは何も起こらない。先進国と新興、途上国の利害が衝突するいまだからこそ、日本は世界経済の秩序と連帯を再構築する役割に尽力すべきだ。自由貿易の恩恵を最も享受してきたのは日本だ。築き上げた世界第3位の経済大国の地位に対する責任がある。

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