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テーマ : 政治しずおか

安全安心 持続可能で豊かな地域へ【2023年度 静岡県予算案特集】

 静岡県が10日に発表した一般会計1兆3703億円の2023年度当初予算案は、新型コロナウイルス感染症対策が大きな転換期を迎える中、本格的なウィズコロナ社会の実現や持続可能な開発目標(SDGs)の達成をけん引する事業に重点を置いた編成となった。東アジア文化都市事業など本県独自の取り組みを契機に観光や地域経済の回復を図る一方で、エネルギー価格高騰など情勢の変化に対応できる社会基盤の構築も目指す。22年度に県内を襲った台風災害からの早期復興や、不安が増す保育環境整備も進める。(表の※は新規事業)

不安定土砂が残る土石流の起点周辺=1月下旬、熱海市伊豆山(静岡新聞社ドローンで撮影)
不安定土砂が残る土石流の起点周辺=1月下旬、熱海市伊豆山(静岡新聞社ドローンで撮影)


 県土強靱化 盛り土対策 28倍21億円超 台風にらみインフラ整備
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 安全・安心な地域づくりを進めるため、不適切な盛り土に対する対策や、激甚化する風水害に備えた県土強靱化(きょうじんか)を推進する。
 盛り土対策は、人家などに影響を及ぼす恐れのある盛り土の安全調査や、熱海土石流で崩れ残った土砂を撤去する行政代執行を着実に進めるため、前年度当初比で約28倍となる21億7700万円を計上した。
 県内に30カ所確認されている危険度の高い盛り土については、前年度に引き続き測量や応急対応を進める。関連経費6億3千万円を盛り込んだ。人工衛星を活用した実証実験も新たに始め、地上からの目が行き届きにくい森林内などでの盛り土造成に空から目を光らせる。
 熱海土石流現場の不安定土砂の撤去は12億円を計上し、23年度末までの完了を目指す。
 公共工事などで発生する土砂の利活用を促進するため、土砂を仮置きする「ストックヤード」整備に1億円を計上した。モデル事業として東、中、西部にそれぞれ1カ所ずつ設置し、官民連携の運営体制を構築する。不適切な盛り土の造成を防ぐ効果も狙う。
 22年9月の台風15号被害を踏まえたインフラ整備も加速させる。浸水被害が発生した地域の河川の護岸改修などに10億8千万円、学校や病院など生活インフラ施設を集中的に保全するための砂防えん堤の整備などに9億円を充てた。
 水害対策をダムや堤防の強化だけに頼らない「流域治水」の取り組みを進めるために、台風で浸水被害を受けた流域15カ所で「減災対策プラン」を策定する事業に1億8千万円を計上した。水田やため池を活用して洪水を防ぐなど具体的な計画を流域の市町などと連携して策定する。
 アフターコロナを見据え、交流を活性化させるための道路環境整備事業として25億円を盛り込んだ。駅、バス停周辺の段差解消など安全な移動空間の創出や、観光施設周辺の道路整備を戦略的に進める。

 物価高対策 業態転換後押し 輸出促す
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 新型コロナウイルスのまん延やロシアによるウクライナ侵攻、歴史的円安などに端を発し、エネルギー価格や物価高騰の長期化が懸念される。県はこれまでの緊急的な資金援助を主とした方針を転換し、社会環境の変化に対応できる取り組みを下支えする施策に軸足を移す。全34事業の総額は37億9400万円で、22年度当初比では約20億円増額した。
 企業対策では、新規事業展開など業態転換を図る中小企業を支援する。物価高騰で影響を受けた事業者が対象で、助成額は上限300万円。2億円を充てた。既存の経営革新計画促進事業費助成も、収益が減少した企業の新商品開発について補助率を引き上げる。
 円安環境を生かした県産品輸出促進機能形成事業に4300万円、県内への旅行商品を作る海外旅行会社に旅行者1人当たり5千円を支援するインバウンド推進事業に1億500万円を計上した。
 生活者支援では、私立の高校や専修学校の授業料免除事業費助成の対象世帯を収入800万円未満から同820万円未満に緩和。高校や特別支援学校の就学支援も継続する。NPOと連携した要配慮者の支援なども新たに始める。

 産業の強化 車技術革新へセンター新設
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 本県の基幹産業である自動車産業の技術革新に向け、浜松市北区の県浜松工業技術支援センターに「デジタルものづくりセンター(仮称)」を新設する。EV(電気自動車)化やデジタル化など急速な環境変化に直面する中、持続可能な産業への転換を後押しする。
 センター設置には4100万円を計上した。12月に開設予定で、3次元データを使った次世代自動車部品の開発支援などを手がける。コンピューター上のシミュレーションを自動車の設計などに生かす動きが広がる中、デジタル技術を使ったものづくりを推進する。
 スタートアップと呼ばれる新興企業の発掘や育成にも注力する。支援事業費として8500万円を計上した。3月に静岡市中心市街地に開設するイノベーション拠点「SHIP(シップ)」を活用し、企業の連携や交流を促進する。
 首都圏のスタートアップ企業と県内企業をつなぐ商談会「テックビートシズオカ」の開催実績などを生かし、県内のスタートアップ企業と社会課題の解決を目指す企業とを結び付けていく。長年培ってきた企業のノウハウにスタートアップの発想力を掛け合わせれば、新産業の創出なども期待される。地元金融機関や既存の支援拠点とも連携を図る。

 エネルギー 再生エネ導入助成 GX支援
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 脱炭素社会の実現を目指し、再生可能エネルギー導入などで産業構造の転換を図るグリーントランスフォーメーション(GX)の支援を加速させる。エネルギー価格の高騰が続く中で、物価高騰対策にも役立てる。
 中小企業向けには、再生可能エネルギー導入促進緊急対策事業費助成制度を新たに創設。5億円を計上した。中小企業などが自家消費するための太陽光発電設備や蓄電池の整備費用を、国補助金に上乗せして助成する。省エネ設備導入支援補助金も拡充し、補助対象をこれまでの設備機器から生産機器などにも広げ、5億円を盛り込んだ。
 水素エネルギーに関しては、水素ステーション導入支援に加え、新たに県内のバス事業者が水素を利用した燃料電池バス2台の費用を補助率6分の1、1台当たり1925万円を上限に助成する。
 温室効果ガス削減効果を排出権にして大手企業などと取引できる「カーボンクレジット」の創出を各産業分野で進める。審査費用を支援するほか、世界農業遺産「静岡の茶草場農法」の生産地や県営林などでの国認証取得の可能性を探る。

 記者の目 除去・防止 両輪対応を
 不適切な盛り土への対策は、目の前にある危険を除去するための迅速な対応と、不適切な盛り土をつくらせないための仕組みづくりを両輪として進める必要がある。
 県は熱海土石流災害の発生後、民家などに被害を及ぼす可能性のある盛り土の情報収集や調査を進め、一部が警察による摘発につながった。人工衛星による監視など最新技術を用い、不正の芽をいち早く刈り取る姿勢を持ち続けることは強力な抑止力になるはずだ。
 加えて重要なのが、建設現場で発生する土砂の利活用の促進。処分に回る土砂量が減少すれば、業者がコストを負担しやすくなり、不適切な土砂の処分が減るという考え方だ。県のストックヤード整備事業はこうした効果も狙う。民間が運営しても利益が出る事業になるよう仕上げてほしい。
 県盛り土規制条例が施行され、規制が強化されたことで民間の残土処分業者は減少したとされる。5月に施行される国の盛り土規制法は、規制がより厳しい。処分業者がさらに減れば、不適切な盛り土が増えることになりかねない。(政治部・尾原崇也)
 

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