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社説(1月30日)新幹線停車増調査 湧水の不安解消が先だ

 岸田文雄首相は、リニア中央新幹線開業による本県への東海道新幹線の停車本数増や時間短縮、経済波及効果の調査について、夏をめどに一定の取りまとめを行う方針を示した。県内区間の工事着手を容認していない県側の理解を得ようと、斉藤鉄夫国土交通相が昨年末、調査に着手する考えを示していた。
 リニア開業後に静岡県民が享受できる利便性を具体化する意義はあろう。JR東海のリニア建設を認めた国交省小委員会は2011年の答申で、東海道新幹線の停車駅増加に加え「新駅設置などの可能性も生じる」と踏み込んだ。川勝平太知事は品川―名古屋間の部分開業時のメリットを調べるよう求める文書を首相に送ったと明らかにした。今回の調査で改めて新駅設置に触れるかも注目される。
 ただ、現時点で多くの県民が最も重要視しているのは、リニア開業によってどのようなメリットがあるかではなく、南アルプストンネル工事に伴う大井川の流量減や環境保全への影響がいかに抑えられるかだ。
 県外流出する湧水問題に関して県民の不安を取り除くための説明や取り組みを尽くすようJR東海を指導することこそ、国に最優先で求められる役割ではないか。県民に利便性さえ理解されればリニア工事の推進につながるという単純な話ではもちろんない。
 そもそも、南アルプストンネル工事を巡っては、JR東海が山梨県から静岡県境を越えて実施する方針を示している高速長尺先進ボーリングについて、県が計画の見直しを求めている段階だ。依然として工事の進捗[しんちょく]が見通せない中、国が東海道新幹線の停車頻度増加などの調査実施を一足飛びに表明したところで、唐突な印象を与えるだけだ。川勝知事が「夢物語を言う前に直面する問題がある」との認識を示したのももっともと言える。
 JR東海の金子慎社長は定例記者会見で、国の調査について、輸送量の具体的なデータを得られるなどとして前向きに受け止めた。ただ、ダイヤ編成は当然ながら国ではなくJRの仕事だ。同社はもともとリニア全線開業後の東海道新幹線の増便を示唆している。工事に着手できず、本業への国の「介入」を許す事態になっている現状を、同社は重く受け止めるべきだ。
 国交省の専門家会議は昨年末、高速長尺先進ボーリングを巡って大井川流域10市町の首長と意見交換会を行った。こうした機会を今後も丁寧に重ねるとともに、JR東海に対して流域住民の不安や懸念の払拭に向けた取り組みを一層、促すことを求めたい。

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