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大自在(1月29日)寄せ鍋と生物多様性

 果物栽培で欠かせない受粉。花々を行き交う生き物が花粉を運ぶ役割を果たし「送粉」と呼ばれる。国の研究機関が送粉の経済価値を試算したところ全国で年間4700億円に上った。静岡県に限っても100億円超で、全世界では67兆円に達する。
 飼養のハチはその一部で、送粉による経済価値の大半は昆虫など野生生物が担う。依存度が高いのはリンゴやウメ、メロン、トマトなどで、特産品にしている青森、山形県などは耕種農業産出額の27%を野生送粉者に依存していた。
 こうしたデータを解説したふじのくに地球環境史ミュージアムの岸本年郎教授(昆虫分類学・生物地理学)の講義は生態系の深淵[しんえん]な世界観に満ちていた。学名が付く生物種は約150万種。生き物は1千万年単位の歴史と、1万年以内程度の人間の土地利用の影響でいまの姿がある。
 自然の営みは多様性に満ち、人類はその恩恵に寄りかかる。地球上の全ての生物はヒトを含め唯一無二の歴史をたどり、一方で同じ起源を持つ。
 岸本教授は食卓で定番の「マグロにワサビ」を「地理的な奇跡」と説明した。マグロの生息と生食の習慣、アブラナ科の野生生物だった多年草ワサビ。これらが重なって存在するのは地球上で日本などごく狭いエリアに限られていたから。
 教授は寄せ鍋を見るたび生物多様性のありがたさに思いを致すそうだ。だしから食材まで、生態系のつながりがなければ鍋料理は成り立たない。「ヒト」は「人」として生物多様性を守る行動に無関心であるなら、自らが生存する環境は危うくなる。

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