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絶景の富士山 褒めてはいけない 「世界でいちばんきれいに見える」宣言の松崎・雲見地区【わたしの街から】

 伊豆半島西海岸に位置する松崎町。雲見地区では駿河湾越しの美しい富士山が望める。2012年に町民らでつくる実行委員会が「世界でいちばん富士山がきれいに見える町」を宣言。同地区には、雲見浅間神社祭神の磐長姫(いわながひめ)と富士山本宮浅間大社(富士宮市)祭神の木花咲耶姫(このはなさくやひめ)姉妹にまつわる伝説が残る。住民らは「世界一」と称する風景を見ながら、今も伝わる姉妹の物語に思いをはせている。

磐長姫が隠れたとされる烏帽子山
磐長姫が隠れたとされる烏帽子山

仲たがい姉妹の神話由来… 毎年2月23日「仲直り」の神事 photo03 松崎町 雲見地区
 伊豆半島西海岸沿いの道を南下すると、山と海に囲まれた温泉街・雲見地区に着く。急勾配の岩山「烏帽子(えぼし)山」に雲見浅間神社がたたずむ。美しい伊豆創造センター(伊豆市)によると、伊豆半島には磐長姫のみを祭る神社が数社あり、雲見浅間神社はその一つ。木花咲耶姫などと一緒に祭ることが多く、全国的に珍しいという。
 松崎町史資料編第四集民俗編(下巻)によると、天照大神の孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)は、元々結ばれるはずだった磐長姫よりも美人の木花咲耶姫と夫婦になった。姉妹は仲たがいし、磐長姫は烏帽子山に隠れて延命長寿の神となった。烏帽子山に登ると富士山が美しく見えるが褒めてはいけない。磐長姫のねたみで富士山を褒めるとけがをすると伝わるからだ。 photo03 磐長姫が隠れたとされる烏帽子山/正月の神事を行う高橋清英宮司(左)ら

 雲見浅間神社31代目宮司の高橋清英さん(81)によると、磐長姫の嫉妬で雲見浅間神社に雲がかかり、富士山から見えなくなったという伝説がある。富士山からは「雲のみぞ見える」ため、地名が「雲見」になったという説もある。
 同地区では13年から2月23日(富士山の日)に合わせて姉妹の「仲直り」の神事が行われる。1日だけでも和解してもらおうと「世界でいちばん富士山がきれいに見える町」実行委が中心となり始め、地域で物語を語り継いでいる。
 高橋さんは「雲見の人口は減る中、神事は雲見や姉妹の伝説を知ってもらう機会になっている」と話す。

伝説など縁で交流 富士宮と都市提携
 磐長姫と木花咲耶姫姉妹の仲直りの神事などが縁となり、松崎町と富士宮市は2022年秋「ヒメの里交流都市」提携を結んだ。深沢準弥町長と須藤秀忠市長が懇談した際に交流が話題になり、締結に至った。住民らの活動が結実した。
 神事を企画した「世界でいちばん富士山がきれいに見える町」宣言実行委の端山晋一委員長(62)は「民間の地道な活動に自治体が振り向いてくれた。永久に姉妹のように仲良くしていけたらうれしい」と意気込む。
 両市町のイベントに住民らが参加して飲食物を販売する交流もあり、昨夏の台風8号で町が被害に遭った際には、富士宮市の住民から雲見地区の宿に支援金が贈られた。
 民宿「太郎」のおかみ鈴木とし子さん(62)は「交流を通じて顔なじみになった人たちから温かい支援をいただいた。本当にありがたい」と振り返った。

【来てここ】迫力のセミクジラ骨格展示 雲見くじら館 photo03 迫力あるセミクジラの骨格標本
 絶滅危惧種に指定され、世界的に貴重な大型のクジラ「セミクジラ」の骨格標本を展示する。国内に数点しかないという迫力ある標本を間近で見られる。
 雲見くじら館を運営する雲見観光協会によると、クジラは体長11.5メートル、体重22トン。10歳のオスとみられる。1977年、雲見漁港に迷い込み砂浜に座礁した。住民らが助けようとしたものの衰弱死した。後にセミクジラと分かり、保存のため同館が83年に開館した。雲見海岸には89年、供養のための石碑が建立された。
 同館の資料は、天正17(1589)年に雲見から北条氏政にクジラを献上したと記す。伊豆半島周辺までクジラが回遊していた可能性もある。

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