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社説(1月5日)子育て学びの安心 財源と人材 体制整備を

 牧之原市の認定こども園の送迎バス内に園児が置き去りにされ死亡したのに続き、裾野市の私立保育園で保育士による園児への虐待が発覚するなど、昨年は子どもの安全を脅かす重大事件が全国で相次いだ。子育てや学びの場で、子どもの安全安心は何よりも優先されなければならない。政府は財源や人材を確保し、体制整備を進める必要がある。
 子ども政策に総合的に対応する「こども家庭庁」が4月、発足する。虐待やいじめなど子どもを取りまく状況が困難を増す中、各省庁に分かれていた業務を集約し、首相直属の「司令塔」にする狙いだ。文部科学省や自治体と連携し機動力を発揮してほしい。
 保育現場で起こる問題の背景に、保育士の人手不足や過度の業務負担があると指摘されている。発生に至る過程には個別の事情もあろうが、保育士の配置や処遇の改善など、保育の安全を保障する体制強化は「公の責任」で取り組むべきだ。

 日本の保育士の配置基準は欧米より手薄で、現場はこれまでも繰り返し改善を求めてきた。給与水準は全職種の平均を下回り、昨年7月時点の有効求人倍率も2・21倍と高水準で人手不足が明確になっている。
 政府は30人に対して保育士1人を配置すると規定される4、5歳児について、新年度予算案に人件費補助の拡充を盛り込み「25人に1人」の実現を目指す。さらに低い年齢児の保育士増員策や、抜本対策としての配置基準見直しを求めたい。
 岸田文雄首相は事あるごとに「子ども真ん中社会」の実現と子ども関連予算の「将来的な倍増」を掲げる。だが、倍増達成の時期や財源については白紙のままだ。今夏に策定する経済財政運営の指針「骨太方針」で財源確保の道筋を示すという。具体的な工程表を明示しなければ、本気度が厳しく問われよう。
 2021年度、全国の小中学校では不登校の児童生徒が24万4940人、小中高校などが認知したいじめは61万5351件と、いずれも過去最多となった。不登校やいじめの増加については、多忙な教育現場が子どものSOSを受け止め切れていないからという重い指摘もある。
 子どもと向き合う十分な時間を教員がとれなければ、つらさを抱えるサインや子ども同士の人間関係の深刻なトラブルなどを見逃しかねない。子どもが教室を安心できる場と実感するためには、教員の労働環境の改善や増員など、国による教育現場への直接的な支援が重要だ。
 近年、休職で生じた教員の欠員が埋められない「教員不足」が各地で起きている。教員採用試験の倍率も低下傾向が続く。背景に挙げられるのが、「ブラック職場」との指摘もある深刻な多忙と実情を反映していないとされる処遇だ。

 公立学校教員に給与月額の4%相当の「教職調整額」を支給する代わりに、時間外勤務手当を支払わないと定めた教職員給与特別措置法(給特法)。教育への公的支出を国内総生産(GDP)比でみると日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国中、常に最低水準で、給特法はその象徴といえる。
 デジタル化への対応など教員の業務が拡大する中、給特法の見直しに向けた論点整理をする文科省の有識者会議が昨年末スタートした。給特法は半世紀以上前の勤務状況を根拠に作られた法律であり、現状への適合を基本に議論を進めるべきだ。
 少子化が加速する中、政府は出産育児一時金の42万円から50万円への増額を新年度予算案に盛り込んだ。同時に大学などの教育費も見通した持続的な支援が不可欠で、政府は大学生に対する返済不要の給付型奨学金などの支給先を世帯所得の中間層にも拡大する方向だ。対象をできるだけ広く捉える姿勢で、制度設計を進めてほしい。

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