社説(12月25日)新時代の社会教育 機会拡大し孤立防ごう
第37期静岡県社会教育委員会(2020~22年)は諮問された「誰もが共に学び合う生涯学習社会の形成」について、池上重弘県教育長に報告書を提出した。生涯学習社会形成の阻害要因として、障害や言葉の壁とは切り口を変えて「孤立」に着目。それは誰にも起こりうる状況だと指摘した。
図書館や公民館など社会教育施設への移動が困難、情報が届かない、といった問題点は介助や広報の仕組みの改善で対処できようが、孤立という要因は現代的課題であり、解決には官民、関係部局の連携が不可欠だ。社会教育の拡充は一つの手段になる。
博物館収蔵品や図書館資料のネット閲覧など、デジタル化は学習機会を格段に広げる。半面、人とつながりやすくなったネット社会の中で孤立する人は増えている。社会教育の機会拡大と機能強化で孤立を防ぎ、人づくり、地域づくりにつなげたい。
社会教育は、家庭教育よりも長期間かつ広範囲に及ぶ。学習指導要領のような基準があるわけではなく、学校教育よりも柔軟性がある。国際化や情報化が進み、共働き家庭が増えるなど、社会や家庭の変化を踏まえ、社会教育も不断の更新が求められる。
社会教育は主として青少年、成人に対して行われる組織的な教育活動で、スポーツやレクリエーションを含む。これに対し、生涯学習は個人の主体的な学びを基本とし、あらゆる機会にあらゆる場所で学ぶこととされる。
社会教育と生涯学習はコインの裏表であり、車の両輪の関係にある。生涯学習のニーズが多様化すれば、社会教育も合わせていかなければならない。
報告書には、人工知能(AI)時代を見据えた「高度生涯学習社会」という記述がある。デジタル社会を担う人づくり、持続可能な地域づくりは教育委員会ではカバーしきれない。多分野が連携する仕組みが必要だ。
近年、社会人が仕事に必要な知識を学び直す「リカレント教育」への関心が高まっている。地域経済の持続化には欠かせない取り組みだ。
キャリアアップや再就職などを視野に職業上必要な知識や技術を大学などの教育機関で学び直すリカレント教育は社会教育とは区別されるが、いつでも、どこでもという生涯学習の理念から、むしろ連動させて捉えるほうが効果が見込める。企業にも社会教育の担い手、支え手になってもらいたい。
社会教育の施設や担い手、理解者に恵まれ、誰もが、いつでも、どこでも意欲的に学べる生涯学習のまちは、魅力的なまちである。