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社説(12月22日)コロナ分類見直し 地域医療強化と一体で

 世界に誇る日本の医療・保健体制は新型コロナウイルス禍でその脆弱[ぜいじゃく]さを露呈した。立て直しに向け、ウイルスの感染症法上の分類見直しとかかりつけ医の制度整備がヤマ場を迎えている。いずれも地域の医療体制の機能強化と密接だ。危機管理の観点も踏まえ、政府は二つの課題を一体的に議論すべきだ。
 コロナ禍の初動段階で、日頃から通院し、かかりつけ医と思っていた診療所で検査を断られたとの訴えが続出した。かかりつけ医の制度化は時間を要するだろうが、議論を契機に人口減少や感染症下でも持続可能な医療提供体制を再構築したい。課題を抱える地方から制度改善の声を上げるべきだ。
 分類の見直しでは季節性インフルエンザと同等の5類への引き下げが課題。現状は結核などと並び患者隔離が原則の2類相当で、治療に当たる医療機関が限られる弊害が顕在化している。岸田文雄首相は指導力を発揮し、議論を加速させてほしい。

 厚生労働省はこのほど、新型コロナウイルス感染で得られる抗体の保有率をまとめ、全国平均は26・5%だった。統計上は国民の4人に1人が感染を経験したことになる。総人口に当てはめると約3300万人で、累計の感染者数約2700万人とは開きがある。自覚のない無症状の陽性者の存在をうかがわせる。
 軽症患者の多くは解熱剤などの対処薬で回復しており、全患者を隔離対応する正当性の説明は困難になってきた。薬の開発状況も踏まえ、一般の医療機関での通常医療への移行を速やかに検討すべき時期に来た。暮らしと経済の立て直しを軌道に乗せる前提であり、国民の関心は高い。
 これまでの感染症対応の知見を踏まえ、維持、強化すべき対策もあろう。混乱のない移行作業には、地方の医療現場に十分配慮した工程表を明示することが必要だ。
 かかりつけ医制度を審議する厚労省の専門部会は見直しの骨子案を公表した。
 曖昧だったかかりつけ医の定義を明示するとした一方、財務省が提案した医師の認定や登録制度には踏み込まなかった。鍵を握る総合診療医は新たな研修制度が動き出したばかりで、医師の再教育には限界がある。医療資源が乏しい地方の実態を踏まえれば慎重対応はやむを得ない。
 厚労省は総合診療医について、心理面や社会背景を踏まえた患者対応を想定する。専門医の特徴が「専門性と深さ」なら、総合診療医は「扱う問題の広さと多様性」で患者に向き合う。超高齢化社会とウィズコロナの地域医療に不可欠な考え方であり、総合診療医の育成を加速させるべきだ。マイナンバーカードと保険証の統合運用を含めた医療のデジタル化も制度設計の鍵を握るだろう。
 当面の対応策として、各地域で診療所の相互連携の強化を探ってほしい。いわば「診・診連携」だ。
 例えば、内科医が患者の症状の訴えに応じ、近隣の耳鼻科や泌尿器科の医師とタッグを組んで適切な治療を検討する仕組みがあっていい。各診療所がそれぞれかかりつけ医機能の「入り口」を担い、地域の診療所を挙げて、総合診療医の機能を発揮する仕組みだ。地区医師会での検討を期待したい。自治体も広報活動など応分の役割を果たし、健診や介護サービスの適正化につなげたい。もちろん患者のたらい回しはあってはならず、これまでの病診連携の枠組みでの運用が前提だ。
 コロナ対応を5類に移行すると公費負担になっている医療費や治療薬、ワクチン接種に自己負担が生じ、緊急事態宣言ができなくなる。必要なら「5類相当」の考え方で一部対策を残す特別措置法の改正も選択肢だ。国会での論戦を活発化させ、国は制度見直しの利点と欠点を国民に十分説明し、丁寧に移行作業を進めるべきだ。

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