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社説(12月21日)厳冬のウクライナ 寒さで市民攻撃 卑劣だ

 ロシアのウクライナ侵攻から間もなく10カ月となる。依然として各地で激しい戦闘が続き、最前線で戦う兵士だけでなく、戦線後方にいる市民の犠牲も後を絶たない。
 冬を迎えてロシアは、ウクライナのエネルギーインフラへのミサイル攻撃を続けている。電気やガスの供給を止めることで、市民を寒さで凍えさせようとする卑劣な作戦だ。ロシアは、非戦闘員である市民や、生活に直結するインフラへの非道な攻撃をただちにやめるべきだ。
 一方、ウクライナ軍は今月上旬、ロシア・モスクワ南東部にあるリャザン州と南部サラトフ州にある空軍基地を無人機で攻撃したとみられている。いずれもウクライナ国境から500キロ以上離れたロシア内陸部にあり、インフラを狙う巡航ミサイルを発射する爆撃機の出撃拠点になっているという。
 ウクライナ側から見れば、インフラ攻撃を仕掛けている爆撃機を破壊するための反撃に他ならない。しかし、ロシア本土への直接攻撃は、ロシアの身勝手な報復を招く恐れがある。戦火が拡大しないことを願いたい。
 これから本格化するウクライナの冬は過酷といわれる。マイナス20度まで下がる場所もあるそうだ。世界保健機関(WHO)は11月下旬、ロシア軍の攻撃でエネルギーインフラの半分が破壊または損傷し、1千万人が電力を失ったとした上で、この冬は数百万人が命を脅かされると警告した。ミサイル攻撃は医療施設にも行われている。発電機や暖房器具など、越冬に向けた国際社会の支援は不可欠だ。
 欧米の軍事支援を受けてウクライナ軍は夏以降、反攻に転じて多くの占領地を解放した。ロシア軍は東部の拠点都市ハルキウ周辺では強襲を受けて一部が敗走し、南部のへルソンからも撤退した。その結果、多くの兵士や戦闘車両を失い、予備役の一部約30万人を秋に招集したほか、前線では守勢を取らざるを得なくなったとみられる。
 しかし、クリスマスを目前にしても停戦機運は高まらない。ウクライナ側からみれば、停戦はロシア軍の占領地を固定することになる。ロシア側も東部と南部4州の併合を発表し、引けない状態のようだ。秋は泥濘[でいねい]状態だった大地は凍結し、装甲車両が動きやすくなる。年明けには招集兵の訓練が完了し冬季攻勢に出ると懸念されている。
 世界は先日まで、サッカーの祭典で盛り上がっていた。ところが、ウクライナでは電力を断たれ、テレビ観戦どころか暖を取れない市民が多くなっている。世界はウクライナの現実から目をそむけてはならない。

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