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テーマ : 社説

社説(12月1日)防衛力強化 議論尽くして信を問え

 戦後日本の安全保障政策は重大な転換点を迎えた。岸田文雄首相は関係閣僚を官邸に呼び、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう、必要な予算措置を指示した。
 防衛力強化に関する政府有識者会議は報告書で、5年以内に防衛力を抜本的に強化するための増税を提言した。国民全体の協力が不可欠だと政治が真正面から説き、幅広い税目による負担に理解を得る努力を求めた。岸田首相は財源の確保策を年末に決定する方針で、増税の議論が本格化する可能性が高い。
 ここは、民主主義の原則に立ち返る時だ。議員の数の力を背景にした独断専行の増税と「軍拡」は許されない。「2%の数字ありき」を理由とした議論の拒否も回避したい。各党は党内協議を踏まえて主張を明確化し、国会審議では少数意見にも耳を傾け論点を整理すべきだ。
 首相はしかるべき段階で衆院の解散を決断し、国民に信を問う必要がある。

 政府は防衛費増額の当面の財源に、余ったコロナ対策予算や特別会計の剰余金を充てる考えだ。増税は膨れ上がった歳出の改革と一体であることを忘れたのか。「防衛力を継続的に維持するため、安定財源の議論は進めたい」と強調しているものの、出だしから予算の使い回しに言及する姿勢は国民に理解を得る順番が違うと指摘したい。
 国会議員を含め、国民の多くは戦後世代だ。物価高や子育て、社会保障など暮らしに密接な課題と異なり、防衛は実感を伴って政策を判断しづらい。ロシアや中国などの覇権国家、北朝鮮のミサイル発射が日本の脅威であるなら、政府は想定される危機と対処方針を具体的に、丁寧に説明する責務を負う。
 わが国は、侵略戦争の反省を踏まえ、事実上の軍事力を防衛力と言い換え、国会の安保議論は憲法や日米安保条約の解釈論に終始してきた。
 一方、政府有識者会議は弾薬や施設の着実な整備、統合司令部を自衛隊に常設することを挙げながら、戦闘を長期間継続できる「リアルな継戦能力(戦闘継続能力)」の強化に踏み込んだ。こうした対応に必要な財源は、国債発行を前提としてはならないとした。
 国民に判断を仰ぐべき課題は積み重なってきた。恒常的な財源確保では税収が多い基幹3税の法人税、所得税、消費税の税制に手を付けるのかが問われる。侵略を抑止する経済、防衛にわたる広範な多国間連携も重要な論点だ。ウクライナへの武器供与やロシアへの経済制裁でみられるように、いまや各国の安全保障は一国の軍事力だけで確立できない。さらに、国民保護や避難態勢の再構築が必要だ。現状ではミサイル襲来の警報が鳴っても、国民は不安を募らすだけだ。

 報告書にある反撃能力(敵基地攻撃能力)の記載も議論になる。「早期に十分な数のミサイルを装備すべき」とした。武器の輸出入に関する防衛装備移転三原則と運用指針による制約をできる限り取り除き、持続可能な防衛産業の構築を説いた。憲法9条に基づく専守防衛のあり方に直結する重要な論点になる。
 サイバー攻撃や宇宙空間での防衛体制構築も課題だ。報告書は、政府と大学、民間が一体となって科学技術開発を進める枠組みづくりを提言した。だが、日本学術会議は1950年に発表した「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」とする声明を堅持している。
 2022年度の防衛費はGDP比1%相当の約5兆4千億円。GDP比2%を実現するには約5兆円が追加で必要になる。政府は、防衛予算確保の裏付けとなる中期防衛力整備計画(中期防)など安保関連3文書を年末までに改定する。公表できる資料は公表し、議論の透明化を徹底すべきだ。

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