社説(11月19日)老朽原発運転延長 オープンな議論徹底を
東日本大震災の津波によって引き起こされた東京電力福島第1原発事故を受けて、国民の多くが原発依存からの脱却を願ったはずだった。
ところが、岸田文雄政権は従来政策を転換、地球温暖化対策や電力の安定供給を理由に原発回帰を強めている。具体的には運転期間を「原則40年、最長60年」とする規定が撤廃される見通しだ。延長は原子力規制委員会も容認している。
この規定は原発事故を受けて、経年劣化によるリスク増加を避けるために導入された。経済産業省は総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で、再稼働審査で停止した期間を年数から除外する案と、上限を撤廃する案を提示した。一方、規制委は停止中も劣化は進むとし、運転開始後30年をめどに10年ごと審査を通す形を示している。
政策転換に際し、国民を交えた議論はなく、選挙で真正面から問われてもいない。原子力小委では年内に結論を出す見通しとされる。限られたメンバーで検討して方向性を決めることが妥当なのか。法改正を伴うため、国会審議を経る形になるが、原発についてはオープンな議論を喚起すべきだ。
発電時に二酸化炭素を発生させない原発が温暖化対策に有効なことは確かだ。再生可能エネルギーの開発や送電網の整備や改善を怠ってきた現在、化石燃料に代わって安定供給が可能なエネルギーがないことも理解できる。
とはいえ、福島第1原発ではいまだに事故処理が続いている。原発再稼働は、事故後に定められた新規制基準に基づいて厳格に審査されているが、だからといって原発の事故リスクがゼロになったわけではない。事故発生時の住民避難計画も実効性に疑問がある。
原則40年ルールを撤廃した場合に安全性はどのように担保するのか。海外では80年稼働も可能な国があるが、地震国日本の参考にはならない。部品や電線は交換できても、原子炉の入った格納容器を入れ替えるのは難しい。設備や機器の劣化だけでなく、原子炉の設計そのものが古いことも考えるべきだ。老朽原発にしがみ付くことで新陳代謝が妨げられ、再エネの導入が遅れる上に、安全性を高めた原発の新型炉の開発が進まない可能性がある。
そもそも原発から出る高レベル放射性廃棄物の処理方法が定まらない。いわゆる「核のごみ」はたまる一方だ。加えてウクライナ危機は、原発が砲爆撃の目標になることを認識させた。新規制基準はテロ対策は念頭に置いているが、戦争状態を想定していない。それでも原発回帰なのか。政府は国民に丁寧に説明し、その声を聞くべきだ。