移動 日常の「脱炭素」実感【SDGs 1.5℃の約束④完】
温室効果ガスを排出せずに移動できる電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)。ガソリン車の新車販売規制に向かう動きもあり、世界で次世代自動車に注目が集まる。県内での普及はまだこれからだが、エコカーを取り入れたドライバーは日常生活の場面での「脱炭素」を確かに感じている。
加速が良く、振動や排ガスがない―。EVやFCVに乗る人たちはそう口をそろえる。
磐田市の会社員福島茂明さん(60)は2021年9月、日産自動車のEV「リーフ」で“日本一周”の旅をした。自宅から関西、九州、日本海沿い、北海道まで回った16日間。「困ることはほとんどなかった」と話す。
19年に購入した今の車は、満充電1回で実質200~250キロ走る。同等サイズの一般的なガソリン車に比べると短いが、「充電する場所を調べておけば不便はない」。
乗り心地の良さとともに実感したのは費用の安さだ。主に自動車販売店にある定額制の充電器や自宅の電源を使って充電する。かつては「月にドラム缶1本分の200リットルくらい使うこともあった」というガソリンは不要になった。3年9カ月の走行距離は約8万6千キロ。試算では、ガソリン車に乗った場合と比べ、二酸化炭素(CO2)排出量を約11トン削減した計算になるという。
「脱炭素に向けて多少なりとも貢献できているのでは」と福島さん。今後はEVをもう1台購入し、日中に自宅の太陽光発電システムから充電する態勢にする。EVの電気を屋内で使うためのヴィークル・トゥ・ホーム(V2H)の設備も設置。なるべく再生可能エネルギーを活用して必要な電気を賄う考えだ。
「化石燃料を使わないから環境に優しい」。22年1月、トヨタ自動車のFCV「ミライ」を購入した御殿場市の山崎伊久雄さん(80)はそう感じた。
このFCVは燃料の水素と外気の酸素を車内で化学反応させて発電し、電気でモーターを回す仕組みだ。ガソリン車のようなエンジンはなく、水蒸気が発生するだけ。これまで乗ってきた10台以上の車と比べても「満足している」という。
課題は水素燃料を補給する施設の少なさ。山崎さんは「自宅近くにあるので困らないが、遠出がしにくい。FCVがもっと増えれば、水素ステーションも増えるのではないか」と語る。
一方、EVもFCVも工業製品で、生産や処分の工程では温室効果ガスを排出する。バッテリーなどを含めるとガソリン車以上とも言われる。EVの動力源になる電気の由来も、多くはCO2の排出源である火力発電所なのが実情だ。
県地球温暖化防止活動推進センター(静岡市葵区)は、車の種類にかかわらず「エコドライブ」を呼び掛ける。例えば、発車時に緩やかにアクセルを踏むことで燃料消費を抑えることができる。服部乃利子センター次長は「自分のライフスタイルの中で、効果を実感できるアクションを選んでいくことが大切」と話す。
(文化生活部・山本淳樹)
<メモ>世界で「脱ガソリン車」の動きが加速している。主要国は次々に販売規制の方針を打ち出した。日本も2035年までに新車として販売される乗用車を電動車に転換する目標を掲げる。県によると、21年3月時点で国内の保有台数(約6180万台)のうち85%はガソリン車やディーゼル車。県は「ふじのくにエネルギー総合戦略」(22年3月策定)で充電などのインフラ整備を推進する目標を設定し、次世代自動車の普及につなげる考え。
\チャレンジ/
・環境負荷の小さい車を選択肢に
・エコドライブを意識する
・数値化で効果を知る
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