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社説(10月20日)園バスの安全対策 装置への過信は禁物だ

 牧之原市静波の認定こども園「川崎幼稚園」で9月、女児=当時(3)=が通園バス内に置き去りにされ死亡した事件を受け、政府は来年4月から全国の通園バスに安全装置の設置を義務付けるなどの緊急対策を決めた。幼い命を守るために安全対策の多重化は好ましいが、装置への過信は禁物だ。機械頼みは本末転倒であることを肝に銘じなくてはならない。
 義務化の対象は、幼稚園や保育所、認定こども園などの約4万4千台。違反した場合は業務停止命令の対象となる。義務化後1年間は経過措置として、バスに点検表を取り付けるなど代替手段を認める。費用に関しては、20万円程度を上限に全額補助する方針だ。
 安全装置には、座席の状況確認を促すブザーや子どもを検知するセンサーなどさまざまな種類がある。ただ、現段階で国内では普及していない。
 国土交通省は大学や研究機関、自動車メーカーの業界団体を集めたワーキンググループを設置し、装置の仕様に関する指針の年内策定を目指す。園側は指針に沿った装置の設置が求められるため、来春の義務化に間に合わせるには指針策定を急ぐ必要がある。
 川崎幼稚園の悲劇は人為的ミスが重なって引き起こされた。人間のミスをゼロにすることはできない。必要なのはミスが重なっても子どもの命を救える仕組みであり、その点でテクノロジーは有効といえる。だが「絶対」はなく、使うのは人間だ。大切なのは人の目だという原点を忘れてはならない。
 緊急対策ではこのほか、降車時の職員による点呼も義務付け、職員向けマニュアルを国として初めて作った。マニュアルではラッピングなどにより外から車内が全く見えない状態を避けるなどの留意事項も記載した。現場は再発防止を誓い、徹底してほしい。
 政府が実施した通園バスに関する全国緊急点検では、約1割が乗降時に子どもの数や名前などの確認や記録をしていなかった。置き去りを防ぐ研修をしている施設も約半数にとどまった。
 保育所などは慢性的な人手不足に悩み、事故につながる恐れがある「ヒヤリ・ハット事例」も多数報告されている。県内でも園児がバスに置き去りになりかけた例がこの1年間に3件あった。
 専門家は、保育所の3歳児20人に対して保育士を1人、4~5歳児の場合は30人に1人を配置するとの国の基準では職員が少なく、安全対策を含む保育の質向上や職員の負担軽減のために基準を見直す必要があると訴える。機械化やマニュアル整備にとどまらず、構造的な問題にも目を向けたい。 

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