あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

社説(10月7日)全国児童虐待最多 基本対応徹底し命救え

 2021年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待件数は、速報値で前年度比1・3%増の20万7659件に上り、統計開始から31年連続で最多を更新した。静岡県は3717件で前年度から5・4%減ったが、依然、高水準が続いている。20年度に虐待で死亡した子どもは全国で77人に上る。
 看過できないのは、虐待が疑われる情報がありながら、十分な対応につながらず命を救えなかったケースが相次いでいることだ。未然防止には、児相をはじめとする関係機関が虐待の深刻度を見定めるリスク評価など、基本的な対応を徹底することが欠かせない。
 厚生労働省の専門委員会が過去の虐待死を検証したところ、リスク評価をしていない事例が目立った。リスク評価は、虐待情報を得た児相や市区町村が子どもや親、学校などから聞き取りを行い、身体や精神の状態、家庭の経済状況など数十項目をチェックする。
 子どもを親から引き離す一時保護など、対応を判断する際の重要な基礎データであり、それが適切に行われなければ重大な結果を招きかねない。
 大阪府摂津市で昨年8月、3歳男児が母親の交際相手に熱湯をかけられ死亡した事件で、府の有識者検証部会は報告書で市がリスクを過小評価していたと指摘した。
 神奈川県厚木市で7月末に母親が車内に2歳長女と1歳長男を放置し、2人が熱中症で死亡した事件では、母親は上旬にも長男を車内に置き去りにし、警察は中旬、ネグレクト(育児放棄)の疑いで児相に通告した。その際、通告から原則48時間以内に子どもの安全を確認することを児相に求める国の「48時間ルール」は守られていなかった。
 基本対応の徹底には、児相の機能強化が不可欠だ。政府は児相の負担減に向け、24年度に人工知能(AI)で虐待リスクを判定する仕組みの導入を目指している。確かに迅速な判断や情報共有などには有効だろう。だが、見極めを機械任せにしてはならない。
 児童福祉司は政府の強化策で増員が進む。県内でも16年度当初に89人だったのが、本年度当初は135人にまで増えた。一方、全国では約半数が勤務経験3年未満で、研修の充実などによる専門性の向上が急務となっている。ベテラン職員の効率的配置、児相OBや民間支援団体などを含めた柔軟な人材活用で虐待対応の質を高めたい。
 虐待の潜在化を防ぐためには、地域の見守りが重要だ。気になる状況に接したら、近くの児相につながる24時間対応の全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に連絡してほしい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ