社説(9月28日)安倍元首相国葬 静かに見送りたかった
安倍晋三元首相の国葬がきのう、東京・日本武道館で営まれた。岸田文雄首相が閣議決定して以来、国葬への反対意見が高まった結果、世論を二分する喧噪[けんそう]の中での実施となった。
故人に対しては静かに手を合わせたいと思う国民は多いはずだ。そうした弔いの場を、独断専行で政治問題化して、世論の分断を深めた首相の責任は極めて重い。できれば静かな環境の中で故人を送り出したかった。
国葬の出席者は国内外合わせて4300人規模。秋篠宮ご夫妻ら皇族も参列した。警察は最大約2万人を投入して警備に当たり、厳戒態勢で臨んだ。都心部では広範囲で交通規制も行われた。葬儀会場近くに設けられた一般向け献花台には、朝から大勢の人々が列をつくって安倍氏をしのんだ。一方で国葬への反対集会も開かれ、分断の深刻さを浮き彫りにした。
問題となるのはやはり、なぜ国葬なのかという点だ。首相は閉会中審査などで答弁に立ち、歴代最長となった在任期間や業績、海外の評価、選挙活動中の非業の死を理由に挙げ、内閣府設置法と閣議決定が根拠になるとした。実施基準作成にも否定的で、政府がその都度総合的に判断するとした。
とはいえ、この説明で納得した国民がどれほどいただろうか。さらに国会の意見も聞かず決定したことが現在の混乱をつくり出している。首相は「丁寧に説明をしたい」などと述べてきたが、幅広い合意形成に向けて努力を尽くしたようには見えない。
首相は、礼節をもって弔問に訪れる海外要人を迎えることや弔問外交の重要性も強調してきた。しかし、国葬である理由には十分でない。しかも先進7カ国(G7)からは現職首脳の出席はなかった。顔つなぎにはなるだろうが、短時間で多くの参列者と会ってどのような成果が期待できるのか。
16億6千万円と政府が公表した国葬経費も問題となる。首相は「妥当な水準」と述べたが、それで済むのか。関連経費は全て公開し、検証が必要だ。大規模な交通規制による経済損失も小さくない。それも計上すべきだ。
庶民は物価高騰に苦しみ、買い物では1円や10円の差にも神経を使っている。災害による断水や停電などで日常生活に苦しむ市民もいる。税金の使い方に疑問を抱く人がいるのも当然だ。
10月3日から臨時国会が始まる。首相は国葬について、さらなる説明を尽くすべきだ。既に終了したでは済まされない。今回の教訓と反省を今後に生かす真摯[しんし]な姿勢も求めたい。首相の政治姿勢が問われよう。