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どうする?離婚後の子育て② 関係者インタビュー【賛否万論】 

 日本は夫婦が離婚した後、どちらか一方が子どもの親権者となる単独親権制度をとっていますが、家族法制の見直しを続けてきた法制審議会(法相の諮問機関)の部会は、離婚後も父母両方が親権を持つ「共同親権」の導入を中間試案に盛り込むことを検討しています。単独親権の維持か、共同親権の導入か。どちらが子どもの幸せにつながるのでしょう。当事者の意見が真っ二つに割れる中、双方の関係者から話を聞きました。インタビューの1回目は、共同親権の導入推進派で「静岡親子の会」の代表を務める大森貴弘常葉大准教授です。

大森貴弘代表 常葉大教育学部准教授。早大大学院法学研究科博士課程を経て、ベルリンのフンボルト大に留学。都内の大学で非常勤講師を務めた後、2009年に常葉学園大の講師に。専門は憲法学。京都府宮津市出身。50歳。
大森貴弘代表 常葉大教育学部准教授。早大大学院法学研究科博士課程を経て、ベルリンのフンボルト大に留学。都内の大学で非常勤講師を務めた後、2009年に常葉学園大の講師に。専門は憲法学。京都府宮津市出身。50歳。
あなたは別居または離婚後、かなうならば1カ月に何回程度、子どもに会いたい(育児をしたい)ですか?
あなたは別居または離婚後、かなうならば1カ月に何回程度、子どもに会いたい(育児をしたい)ですか?
面会交流の取り決め有無と実施状況
面会交流の取り決め有無と実施状況
大森貴弘代表 常葉大教育学部准教授。早大大学院法学研究科博士課程を経て、ベルリンのフンボルト大に留学。都内の大学で非常勤講師を務めた後、2009年に常葉学園大の講師に。専門は憲法学。京都府宮津市出身。50歳。
あなたは別居または離婚後、かなうならば1カ月に何回程度、子どもに会いたい(育児をしたい)ですか?
面会交流の取り決め有無と実施状況

 

両親に愛された体験、心の支えに 共同親権の導入推進派/静岡親子の会・大森貴弘代表


 「静岡親子の会」はどんな活動をしているのですか。
 別居後や離婚後に子どもと会えなくなった親の相談に乗ったり、国会議員や市議会議員の方々への陳情を行い、別居親に対する施策の充実をお願いしたりしています。活動は2017年から。先に発足していた「浜松親子の会」と一緒に動いていて、両団体を合わせれば、御殿場から三ケ日まで県内全域に40人ほどの会員がいます。

 ■別居親7割 面会できず

 単独親権制度の最大の問題点はどこにあると考えますか。
 別居親の7割ほどが子どもと会えなくなっているという調査結果があります。離婚後に親権を失うと、学校の運動会や授業参観でも「あなたは保護者ではないでしょ」と追い出されたりしてしまう。たとえ家庭裁判所で面会交流の取り決めができたとしても、守られないケースも多いです。家裁もできるだけ面会交流が行われる方向で話を進めてくれるようになっていますが、現状の法制度では道のりは本当に長いんです。離婚した男性の自殺死亡率は高いという厚生労働省の調査もあり、この中には親子断絶による自殺者も相当数含まれていると思います。私は単なる法制度の問題とは捉えていません。人権問題と考えています。面会交流は子どもの権利でもありますが、親の権利でもあります。ドイツ連邦憲法裁判所でも欧州人権裁判所でも、面会交流は人権として保護される法益として認められていて、日本は時代錯誤と言えます。

 それは「親のエゴだ」という声もあります。
 子どもにとっても、両親の愛情を受けて育てられた方がいい。片方の親の価値観だけでなく、両方の親の価値観を学びながら成長した方がいいのではないでしょうか。ひとり親だけで育つと、子どもの精神が不安定になりがちという海外の研究もあります。また、離婚後に親権者となった親に新しいパートナーができた場合、そのパートナーから子どもが虐待を受けたりするケースもみられます。共同親権が導入され、別居親が子どもと定期的に会う面会交流が充実すれば、すぐに子どもからのSOSをキャッチできる。悲劇を防止し、子どもの命を守ることにもつながります。

 どんな形が理想ですか。
 私は「選択的共同親権」ではなく、「原則共同親権、共同監護」を望んでいます。離婚後、まずは共同養育に取り組む。例外として、一方の親の申請によって単独親権への移行が裁判によって認められる制度にすべきと提言してきました。
 例えば、共同養育が3年で破綻し、裁判所の決定によって単独親権に変更になることがあるかもしれません。しかし、この3年間は子どもにとってかけがえのない大切な時間になるはずです。こうした期間は、「子どもの発達に良い影響を及ぼす可能性がある」とドイツ連邦憲法裁判所の判例の中でも言及されています。共同養育に向け、元夫婦が融和を試みた努力は無駄にはならない、少しの間でも両親に愛された体験が続けば、その後の子どもの心を支えていくこともあるだろうと。選択的共同親権では、最初から融和を拒否されてしまう可能性が生じてしまいます。別居親が差別される状況が続かないよう、親権に「監護権」を含めることも重要です。

 共同親権制度では別居親のドメスティックバイオレンス(DV)が継続されてしまうという反対派の意見があります。
 まずは前提として、子どもと同居する親の方が暴力を振るい、もう片方の親を追い出していたケースもあるということを知ってほしいです。
 また、DVや虐待など問題がある場合にのみ、制約を加えればいいのでは。例えば、面会をしばらく監視付きにするなどいろいろな形が考えられます。元夫婦が顔を合わせずに子どもと会ったり、重要事項を決めたりすることも可能です。米国では、4割以上の元夫婦が顔を合わせずに子育てしています。別居親が放課後、学校に子どもを迎えに行き、自宅に連れてきて宿泊させる。翌日、学校に登校させる。これだけでいいんです。ほかにも祖父母に協力してもらったり、費用はかかりますが面会交流支援団体のサポートを受けたり、子どもの受け渡しを工夫することはできるはずです。

 ■元夫婦の協調が大切

 元夫婦の話し合いがうまくいかず、進路先や治療法など、重要事項の決定が長期化してしまうという心配もあります。
 リスクはありますが、話し合いの調整機関をつくるなど方策を考えればいい。子どもが一定の年齢に達すれば、子どもの同意で決定することも一つの方法です。海外では、最後は裁判所が決め、あまりにも片方の親が強情な場合は単独親権に変更される例があります。まずは双方が子どものために、協調する努力を一生懸命していくことが大切だと思います。

 法制審議会の協議について、意見はありますか。
 中間試案のたたき台の中に「単独親権維持」の選択肢が残されていましたが、あり得ません。「無断で日本に子どもを連れ去られた」として、海外からの批判もかなり高まっています。米国でも、子どもの返還に応じない場合は制裁措置を求める声が上がります。ここで、単独親権を維持すれば国際社会でも問題視されるのではないでしょうか。
 (聞き手=社会部・南部明宏)

 次週の賛否万論は、静岡市のひとり親支援団体「シングルペアレント101」の代表で、共同親権導入に反対する田中志保さんのインタビューを掲載します。

 

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 共同親権の導入議論について、あなたはどう考えますか。さまざまな立場からの投稿をお待ちしています。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422―8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

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