社説(9月8日)防衛費増額要求 軍拡よりも緊張緩和を
2023年度予算の概算要求で、防衛省は過去最大となる5兆5947億円を計上した。必要となる金額を示さず事業項目だけを示し、内容判明後に追加要求する「事項要求」を多数盛り込んでいるため、最終的に1兆円程度が積み増しされ、当初予算では6兆円台半ばになるとみられている。
岸田文雄首相や自民党が目指しているように、今後も毎年1兆円ほどの増額が続けば、これまでGDP比1%程度だった防衛費が倍増されることになる。そうなれば日本の防衛費は、米中に次ぐ世界3位レベルになる。
しかし、軍備拡大は周辺国との緊張を高める恐れもある。軍拡を急ぐのではなく、対話を重視し緊張緩和を図って、争いを起こさぬようにすることこそが日本の役割ではないか。
防衛関係費のあり方も、まずはどのような防衛戦略をとるべきかを定めた上での議論が欠かせない。これまで専守防衛を基本として、「平和国家」を追求してきた戦後日本の姿勢が揺らぐことがあってはならない。
首相は5月の日米首脳会談で防衛費の「相当な増額」を表明。6月の経済財政運営の方針(骨太方針)にも「防衛力の抜本強化」を明記した。自民党も参院選の公約で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国内総生産(GDP)比2%以上を目標とすることを念頭に防衛関係費を積み上げ、5年以内に防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指すとした。
ロシアによるウクライナ侵略や台湾を巡る中国と米国の対立を見せつけられ、防衛費増額に国民の一定理解は得られるかもしれない。しかし、隣国との緊張を高め、軍拡競争を激化させることが解決策になるとは思えない。
事項要求の柱とされるのが、相手の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」や「総合ミサイル防空能力」などの向上だ。加えて無人機の活用やサイバー・宇宙などの領域で作戦能力の強化を図る。スタンド・オフ防衛能力向上の具体例が地対艦誘導弾(ミサイル)の長射程化と量産だ。政権と自民党が力を入れる相手国の領域を攻撃する「反撃能力」を裏付ける装備となるため、反撃能力保有とともに十分な議論が欠かせないと言える。
GDP比2%は根拠が不明確で、数値ありきの疑念が拭えない。必要な装備を積み上げて算出すべきだろう。厳しい財政事情の中では財源の議論も不可欠だ。国債増発か増税しか頭に浮かばないが、いずれも国民に負担を求めることになる。どうやって理解を得るのか。課題は尽きない。