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テーマ : 長泉町

県立静岡がんセンター 開設20年 患者や地域と歩み続ける

 長泉町の県立静岡がんセンターが本年度、開設20年を迎えた。患者に尽くす世界一のがんセンターを目指す理念の下、本県のがん医療や県東部の医療健康産業をけん引し、「医療城下町」を完成させた。地域とともに歩みを進める中、センターが診療を開始した6日に合わせ、これまでの成果や果たしてきた役割に迫った。

ゲノム医療の研究を紹介する秋山靖人所長=長泉町の県立静岡がんセンター研究所
ゲノム医療の研究を紹介する秋山靖人所長=長泉町の県立静岡がんセンター研究所
がん免疫細胞療法のさまざまな解析に取り組む県立静岡がんセンター研究所
がん免疫細胞療法のさまざまな解析に取り組む県立静岡がんセンター研究所
ゲノム医療の研究を紹介する秋山靖人所長=長泉町の県立静岡がんセンター研究所
がん免疫細胞療法のさまざまな解析に取り組む県立静岡がんセンター研究所



 

がんゲノムDB 遺伝子解析1万人 新たな治療技術期待

 県立静岡がんセンターによる日本人のがんゲノム情報を集めデータベース化する研究で、遺伝子を解析したがん患者が1万人に達した。日本人のがんの原因となる遺伝子変異の情報を詳しく調べることで、新しいがん診療や治療技術の開発につながると期待される。
 がんはゲノム・遺伝子の病気とされる。センター研究所では、病院と協働して、2014年から遺伝子解析研究「プロジェクトHOPE」を開始した。センターで手術を受けた患者から取り出したがん組織や血液などの遺伝子を解析し、国内で例を見ないデータベース化を進めている。成果は厚生労働省から評価され、がんゲノム医療中核拠点病院に指定された。また、ファルマバレープロジェクトの一環として研究成果の企業化を進めている。
 研究所は、センター開設時に病院内に設置され、05年には新研究所棟で活動を始めた。8研究部門3研究室に医学図書館を併設し、①診断・治療技術開発②患者・家族支援研究③ファルマバレープロジェクト推進の3点を目標としてきた。
 新研究所棟には、がんの免疫細胞療法の研究施設が整備されている。秋山靖人所長は、長年がんワクチン治療に取り組み、現在がんワクチンと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた新たな免疫治療の実施を準備している。
 がん看護を対象とした2研究部の設置は日本初の試みだった。この部門による患者や家族の苦痛、悩み、負担の実態調査研究は日本の先駆け研究として国のがん対策に活用された。がん薬物療法の副作用対策や県民に地域の医療サービスを紹介する「あなたの街のがんマップ」は、ウェブサイトで公開され、全国、県内の患者・家族や医療スタッフに活用されている。

  photo03 開設20年を迎えた県立静岡がんセンター=長泉町下長窪  

 県立静岡がんセンター研究所 センター敷地内に併設型研究施設として2005年11月に開設した。現在は計8部3室体制で、ゲノム解析研究を中心に、がん免疫細胞療法に関するがんワクチン治療の研究なども進める。


 

山口建総長 理想のがん医療、さらに追求

  photo03 がん医療の歩みや地域発展について説明する山口建総長=県立静岡がんセンター  

 県立静岡がんセンターが開設して20年。これまでのがん医療の歩みや地域発展に果たしてきた役割、今後の展望をセンターの山口建総長に聞いた。
 -この20年を振り返りどう感じるか。
 「センターは、患者に理想のがん医療を提供し、同時に医療健康産業の活性化を図るファルマバレープロジェクトの推進を目的に設立された。がん診療は、病院、研究所、疾病管理センター、事務局、マネジメントセンターが協働し、先端的治療の実践と徹底した患者家族支援を追求してきた。その目的はほぼ達成され、日本最大の病床を有するがんセンターとして、特定機能病院、がん診療連携拠点、がんゲノム医療中核拠点などの指定を受け、全国のモデル施設となった。ファルマバレープロジェクトについても、長泉高跡地に拠点施設が整備され順調な歩みを見せている」
 -具体的にはどのような成果が見られるか。
 「県民に、副作用や合併症を抑えた最先端のがん医療を提供することを可能とした。手術では低侵襲性手術に力を入れ、内視鏡手術、ダヴィンチ支援手術は日本のメッカになっている。放射線治療では照射精度を高め、陽子線治療も日本での導入の先駆けとなった。がん薬物療法では、新たな薬剤の臨床開発に協力し、特に副作用を和らげるための支持療法に取り組んできた。また、緩和ケア部門では、日本で最大数の最期のみとりを実践し、『死の質』の向上に取り組んできた。
 患者家族支援への取り組みは、センターの大きな特徴となった。全国で初めて整備されたがんよろず相談、患者家族支援センターでは患者と家族に寄り添うケアを重点的に行い、患者図書館も合わせてがんを患う県民の心の支えとなってきた。こうした取り組みは国のがん対策にも数多く反映されている。
 ファルマバレープロジェクトでは『医療城下町』がほぼ完成した。その成果は、内閣府による総合特区の指定や日本第1位となった医薬品・医療機器製造販売額などに反映されている。超高齢社会への対応を目指す健康長寿・自立支援プロジェクトも順調な滑り出しを見せている」
 -今後目指す方向性は。
 「診療面では、熟練した医療スタッフと最新機器、さらにはゲノム医療を駆使して、一人一人の患者に適した治療を提供する『個別化がん治療』を推進する。患者家族支援については、すでに整備を終えたさまざまな部門の充実を図り、理想のがん医療をさらに追求していきたい。ファルマバレープロジェクトに関しては、『医療城下町』を核として、優れた住・医療環境を持ち、高収入の職場が用意された『医療田園都市構想』を推進する。過去20年間の長泉町や周辺地域、さらには地域企業の発展がモデルで、決して夢物語ではないと確信している」


 

患者目線で治療やケア

  photo03 患者家族に寄り添った支援を心掛ける水主いづみ看護部長

  手術 

 患者の体への負担を和らげるとともに、超高齢社会での高齢患者に対応するため、低侵襲性手術は社会のニーズとなっている。
 内視鏡手術の開発者である小野裕之副院長は胃、食道、大腸・直腸などの消化管に発生した早期がん治療法を確立し、標準治療への導入などにより全国への普及に努めてきた。同時に、センターでは、胸腔(きょうくう)鏡や腹腔(ふくくう)鏡を用いる鏡下手術を経て、過去10年間は手術支援ロボット「ダヴィンチ」に注力し、欧米での主な対象である前立腺がんに加えて、世界に先駆けて胃がん、大腸・直腸がんへの活用を進め、日本でのロボット支援手術の指導的病院となった。ダヴィンチによる直腸がん手術は、全国最多の1500症例に達し、合併症を低く抑え、好成績を誇る。現在はダヴィンチ3台が稼働。計6診療科で使用し、全診療科での手術件数は年3400症例に上る。
 一方、進行がん、難治がんは、膵臓(すいぞう)がんの分野では、治療向上のため、上坂克彦病院長らによって、手術と補助薬物療法を組み合わせた治療法が確立された。また、センターでは脳転移や骨転移に対する治療に取り組み、運動機能の維持と苦痛緩和を積極的に行っている。


  薬物療法 

 センターでは、がんの種類に応じて消化器、呼吸器、乳腺、血液などの細分化された腫瘍内科が整備されている。がん薬物療法では、世界的に新薬の開発が進んでいて、これらの腫瘍内科を含む多くの診療科が、国民への速やかな使用を可能にするため積極的に臨床試験を実施してきた。
 がん薬物療法の大多数は、外来診療として行われる。そこで、日本最大規模の化学療法センターと副作用対策を実施する支持療法センターを開設し、副作用を和らげる努力を払っている。さらに、患者図書館では、がん薬物療法の副作用対策のための冊子を発行。研究所で作成され、がんの種類別にまとめた「処方別がん薬物療法説明書」は、副作用対策の冊子とともにウェブサイトに公開され、全国の病院で活用されている。


  放射線治療 

 国内のがん患者の約4分の1が受けている放射線治療。センターでは、高精度な照射技術を駆使した治療を進め、年間の延べ患者数は全国でもトップクラスの2千人に上る。
 放射線治療は、がんの治癒を目指す根治目的や痛みなどの症状を低減する緩和目的などに利用される。放射線治療は、切らずに局所療法が行えるため、体への負担が少なく高齢者に適した治療とされる。最新の治療装置は、コンピューター化が進み、ピンポイントの照射が可能となり、正常組織のダメージを抑えることができる。開設以来稼働している陽子線治療もまた、優れた治療効果とピンポイント照射を可能とし、多くのがんに用いられている。
 また、センターは、ファルマバレープロジェクトの一環で、ポリウレタン樹脂の柔らかな素材を患者に密着させ、体表面の病巣に十分な線量を照射するための器具を地域の企業と共同開発した。現在、放射線治療の精度を高めるための製品として販売されている。


  患者家族支援 

 がんに関するさまざまな相談に応じるよろず相談は、ソーシャルワーカーが中心となって開院直後から現在まで、年間1万件を超える相談に対応してきた。センターの患者対象の対面相談と全県民からの電話相談を受けている。がんよろず相談は、全国のがん拠点病院に整備を義務づけられている相談支援センターのモデルとなり、2012年に日本対がん協会から朝日がん大賞を授与された。
 その後、センターへの通院患者を対象として、初診問診、カウンセリング、情報提供、緩和ケアなどを担う看護師主体の「患者家族支援センター」を設置し、患者の悩みや不安、暮らしの負担などについて支援を行っている。
 このほか、患者図書館では積極的な情報提供を心掛け、研究所では患者支援に役立つ調査とツールの開発を進めている。その成果の一つであるウェブ版がんよろず相談は全国のがん患者に利用されている。

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