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テーマ : NEXTラボ

どうする免許返納㊥ 高齢の親の運転に不安を感じたら…どう切り出す?【NEXT特捜隊】

 「運転免許の返納、いつ決断するべきか悩んでいます」。焼津市の女性(83)のお悩みをきっかけに取材した「どうする免許返納」シリーズ。 今回のテーマは、高齢の親の運転に不安を感じたら、子どもはどうしたら良いのか。「大切な親に、これなら『決心』させられる!免許返納セラピー」(講談社)を監修した九州大大学院システム情報科学研究院の志堂寺和則教授(60)に助言を求めた。
⇒どうする免許返納㊤ 決断する基準は? 周囲のかかわり方は?。
⇒どうする免許返納㊦ 免許不要の電動車いす 家族に気兼ねなくお出かけ


親を被害者にも加害者にもしない

 運転免許証は親のプライドと、家族の思い出の詰まった人生の宝物。本人が望まないのに、親から免許を取り上げたい子どもなんていない。それでも心を鬼にして返納を勧めるのは大切な親を被害者にも加害者にもしないためだ。


志堂寺和則教授

 高齢者の運転技能は個人差が大きい。体調や天候によって異なるケースも多い。親の運転する車に同乗して、運転技能を定期的に確認することが大切だ。 ヒヤっとする場面があったら「ブレーキが遅くて、ちょっとびっくりした」などと柔らかい言葉を選び、危険だったことをその場で伝える。ポイントは、一言で終わりにすること。長々説明されるとお年寄りは聞く耳を持たなくなってしまう。
 プライドの高い人に対しては「この道は運転しにくいね。さっき右から来た自転車、気付いてた?」というように、他の人への文句と見せかけて危険だった事実を伝える方法も有効だ。 運転中に危険があったという記憶の積み重ねにより「自分の運転には危険が伴う」ことを自覚するようになる。 返納の前段階として、期間限定で運転を控える免許返納体験や、運転技能の低下を考慮して夜間や雨天時などで運転を控える「補償運転」を試してみるのもお勧めだ。

「運転以外、今までと変わらない生活」が理想

 親の運転する車に同乗して免許返納を勧めるべきと判断したら、まずは車がなくても困らない親の生活プランを準備してみてほしい。親の心を閉ざしてしまわないためにこの段階では、子どもが返納に向けて動いていることを悟られないようにする。 親の生活サポートの一環として準備するのがお勧めだ。親の運転に現状で不安がない場合でも、将来のために準備しておくと良い。
 準備には、親の運転の真の目的を知ることが欠かせない。意外と親の生活パターンや嗜好(しこう)を知らない人も多いのでは。あくまで理想だが、自分が運転できなくなること以外、今までと変わらない生活ができるのであれば免許返納のハードルは下がる。
 準備とは、親のニーズに合ったサービスを具体的に調べて、利用できるようにお膳立てすること。官民のサービスの情報は一元的にまとまっていないケースも多い。情報を集めて整理することから始める。 例えば、親が買い物で運転しているのであれば利用可能なネットスーパーを探し、設定や登録を済ませ、何度か一緒に利用してみる。通院で車を使っているのならば、利用できる公共交通やタクシーの料金、時間、連絡先の一覧を作る。
 その際、車の維持にかかっている費用も一覧にしてみるのも一案。免許を返納して車を手放し、他の交通手段を使った方が経済的な負担が軽いケースもある。 また準備の段階で「まだ先のことだけど、運転はいつまでする予定?」などと、軽く聞いておくと後々の流れを考えやすくなる。

返納を切り出す際は感謝・愛情を強調

 免許返納の切り出し方として①これまでの感謝・親への愛情を伝える②子どもが自らの衰えを伝える③高齢ドライバーの事故が問題化している社会背景を説明する④親への心配を伝える⑤返納を切り出す⑥著名人の返納事例を紹介する ⑦返納後の代替案を提案するーという流れを一例として提案する。

 まず①で子どもが親を大切に思っていることを強調②で加齢は親だけでなく誰にでも平等に訪れていることを示す③④⑤で具体的な高齢ドライバーの事故の報道や統計を挙げ、親を大切に思うがゆえに運転を心配していること、返納について一緒に考えたい気持ちを伝える ⑥で芸能人をはじめ免許を返納したモデルを示し、「歩くことが増えて健康になった」「鉄道が新たな趣味になった」など返納のメリットを紹介する。 最後に、これまで準備してきた車がなくても困らない親の生活プランを基に、免許返納後の車に代わる交通手段や自分たちができるサポートを説明する。

 親のきょうだい、友人、かかりつけ医などに協力してもらい、「説得」「共感」「中立」などの役割分担を決めて切り出すのも一手だ。親の免許返納は家族の問題。それぞれに合った方法を探し出してほしい。



 プロフィル 志堂寺和則(しどうじ・かずのり)。九州大学大学院システム情報科学研究院教授。日本交通心理学会副会長。交通科学、ヒューマンインターフェース/バーチャルリアリティーの二つのテーマで主に研究活動を行っている。

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