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社説(8月17日)文化系の中学部活 地域移行を成長機会に

 文化庁の有識者会議が、公立中学校の吹奏楽、合唱、演劇などの文化系部活動を地域の文化芸術団体などに委ねる「地域移行」について提言をまとめた。まずは、2023~25年度の3年間で休日の活動を段階的に移行すべきとした。
 20年の文化庁調査によると、中学生の約3割が文化部に所属している。国や地方自治体は、引き続き生徒が幅広い文化芸術活動に親しむ機会の確保に努める必要がある。現状維持を目指すのではなく、生徒の成長機会を創出する改革であってほしい。
 学校が中心だった文化部の活動を、周辺に住む大人や子どもと一緒に行えば、地域の文化振興になり得る。アニメ制作やアプリ開発など、これまでになかった分野を取り込むことも可能だ。柔軟な発想で、新しい活動の形を模索したい。
 部活動を巡っては、スポーツ庁にも運動部に関する同様の提言が出されている。いずれも、背景には少子化による廃部や活動縮小への対応、教員の労働環境改善がある。
 国はこれまでに、ガイドラインなどで23年度からの地域移行の方針を示している。文化庁への提言では、近い将来に平日の活動も学校と切り離すことを想定。活動場所の例として全国に約1万4千カ所ある公民館、劇場、生涯学習センターを挙げ、指導も教員から外部の専門家に移すよう促す。
 地域によっては、受け皿となる団体を設立する必要もあるだろう。運動部の移行先として想定される「総合型地域スポーツクラブ」のような、幅広い世代が集う場所がほしい。家庭、学校とは異なる「サードプレイス」が確立できれば、生徒が新しい価値に触れる機会が増える。
 静岡県内には「地域部活」「地域クラブ」などと呼ばれる、学校や年代の枠を取り払った活動事例が生まれている。掛川市は22年度、教育委員会が地域クラブを公認する制度を開始し、文化系2クラブも名を連ねている。先例を参考にしたい。
 指導者や活動場所の確保には、国や地方自治体の予算措置が欠かせない。活動費用の保護者負担については、各家庭の経済状況に応じて配慮が求められる。教員を部活動指導者として採用する場合の手続き、学校の教室の安価な利用の仕組みなど、市町の文化振興担当者や教育委員会で調整が必要な案件も多い。
 移行期間が始まる23年度まで、残された時間は少ない。行政関係者は、各地の部活動の現状を的確に捉え、スピード感を持って制度構築してほしい。

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