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テーマ : 社説

社説(7月20日)かかりつけ医改革 拙速な法制化は避けよ

 新型コロナウイルスの感染症対策で役割の再評価が進む地域の診療所「かかりつけ医」を巡る議論が迷走気味だ。機能強化のため法制化を目指す政府方針に、日本医師会(日医)が反発している。
 コロナ対応の初期段階で、信頼していた医師に診察を断られる事態が多発し、かかりつけ医の機能不全が露呈した。小規模医療機関では、万全の隔離対策や通常診療との切り分けが困難だったことが主な要因だ。現状では、時間を区切った発熱外来の開設など事態は改善しつつあるものの、政府はかかりつけ医の法的位置づけの明確化が必要と判断した。
 地方では過疎地の医療機能維持や健康長寿に果たす役割、災害への対応など、中小医療機関に求められる機能は多様だ。ことさら感染症対応の不備を焦点化した、拙速な改革は避けたい。あるべき地域医療へ進化させるため、国民的議論の喚起が求められる。論点を明確化し、透明性の高い政策形成を進める必要がある。
 かかりつけ医は、健康に関する幅広い相談に応じ、症状に応じて専門医や医療機関につなぐ。患者が大病院に押し寄せるのを防ぐ狙いで医師会や厚生労働省が推進してきた。紹介状のない大病院の初診患者に医療費とは別の追加徴収を定めるなど、病院と診療所の役割分担を進める病診連携施策の要と位置付け、推進策を講じてきた。
 政府は法制化で、要件を定めてかかりつけ医を認定し、患者に自主的に登録を促す制度を想定している。医療機関相互の協力態勢や休日夜間の対応、訪問医療体制などの機能が認定の判断材料に挙がっている。岸田文雄首相は2022年度の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、全世代型社会保障制度の構築に向け「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記した。
 日医は、かかりつけ医の役割は引き続き担うが、法制化には反対との立場だ。患者が医療機関に期待する機能は患者ごと異なると説明し、法制化は必要な時に適切な医療にアクセス(接触)できる仕組みを損なうと訴えている。ただ、新型コロナ感染で診察拒否があり、「適切なアクセスを守る」との主張には、さらなる説明が必要だ。
 医療機関はオンライン診療や、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせるマイナ保険証への対応など改革を迫られている。資機材の整備と操作の習熟が必要になる。対応できる診療所に患者が集中し、地域の医療環境が混乱する事態を招かぬよう、政府は監視と支援を怠ってはならない。

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